「世界の歌姫」と言われる英ソプラノ歌手、サラ・ブライトマン(58)にインタビューする機会があった。5年ぶりのアルバム「HYMN 永遠の讃歌」(11月発売)で、X JAPANのYOSHIKIと共演したのを機会に来日したのだ。

5年前、彼女は国際宇宙ステーション(ISS)への宇宙旅行を発表して話題になった。ロシアで訓練を重ね、まさに出発寸前となったところで「いろいろな理由」で計画は中止となっている。

取材では、宇宙に思いをはせた理由を聞いてみた。「60年代に幼少期を過ごしたので、月面着陸(69年、アポロ11号)は鮮烈な記憶として残っていますから」。ほぼ同世代なので、この「幼少期の記憶」には実感がある。今でも本棚の片隅に「アポロ写真集 月面着陸第1号」(朝日新聞社、AP通信社共編)が残っている。

69年当時で2800円。中学生にとってはかなりの大枚をはたいたものだ。着陸時の驚くほど鮮明な写真や3人の飛行士の訓練風景に当時の興奮を思い出す。翌年には「月の石」見たさで大阪万博のアメリカ館の長蛇の列に並んだ。

「1人の人間にとっては小さな1歩にすぎないが、人類にとっては大きな躍進である」との名言を残したアポロ11号のニール・アームストロング船長を主人公にした米映画「ファースト・マン」が来年2月に公開される。

「ラ・ラ・ランド」のライアン・ゴズリング(38)とデイミアン・チャゼル監督(33)が再タッグを組んだ作品で、30代コンビが「月着陸」を題材に選んだことに驚くが、世代を超えて語り継がれる歴史的一大事ということなのだろう。

2人の来日に合わせて行われたプレイベントには、5年後の月周回旅行を計画しているZOZOTOWNの前澤友作社長(43)も参加した。「ここ数年で最高の映画。ハッチを開く音までリアルだった」と笑顔を隠さない。

一方で、劇中のあまりにリアルな「命がけ」に一緒に試写を見たZOZOのスタッフは社長の身を案じ、しきりに月旅行再考を提言しているという。

ブライトマンに正直な今の気持ちを聞いてみると「今、世界は問題だらけです。宇宙開発も突き詰めれば、そんな問題を解決するための研究の一環です。専門家が宇宙に行ってさまざまな分野で還元するならば意味があると思いますが、民間人が行くことに果たして意味があるのか、懐疑的になっているんです」と明かした。

「小さな1歩」の夢実現から約50年。複雑化した現実が積み重なり、「月旅行」への思いは単純にはいかない。さまざまだ。ゴズリング-チャゼルのヒット・コンビが今、あえてこの題材を選んだ理由もその辺にあるのかもしれない。