17日に肺炎のため死去したロック歌手内田裕也さん(享年79)は、昨年9月15日に亡くなった妻で女優の樹木希林さん(享年75)とは40年以上の別居婚を通してきた。個性的な2人の独特な夫婦関係だったが、2人にしか分からない強固なきずなで結ばれていた。

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不思議な夫婦だった。内田さんと希林さんは73年に結婚したが、半年後には暴力が原因で別居した。かつて希林さんは「家の中はめちゃくちゃで、包丁をどれくらい買ったか」と明かしたほどだった。

離婚寸前にまでいったこともあった。81年に内田さんが離婚届を提出したが、希林さんは一方的だと訴訟を起こした。結果、離婚届は無効に。以後、月に1度のペースで会ったり、ファクスでやりとりして別居婚を貫いた。

互いに認め合っていた。希林さんは「内田さんとは一緒の方向を見ていると感じることができる。飽きないのよ」と言い、内田さんも「いい意味のライバル。彼女とはセンスや人間に対する感覚が似ていると思う」と話してくれた。

40代のころから毎年ハワイで正月を過ごしていた内田さんが、希林さんに声を掛けるようになったのは、04年ごろだった。現地に先乗りしている内田さんは、「目立つから迎えに来なくていい」と言う希林さんを必ず迎えに来たという。

穏やかな関係をうかがわせていたころ、強烈な事件が起こった。11年、内田さんが、別れ話を切り出した交際女性の部屋に侵入するなどして逮捕された(後に起訴猶予処分)。希林さんは自宅で会見を開き「今まで付き合った多くの女性にもいろいろあったと思います。被害に遭ったら言ってもらった方が内田のためだった。今回さらしてくれた方に『ありがとう』と思います」とばっさり斬った。それでも離婚については「純なものがひとかけら見えるから。自分も逃げないで引き受ける」と否定、突き放すことはなかった。

内田さんは、昨年9月に希林さんが亡くなった際、ショックでしばらくコメントが出せなかった。納骨の時には希林さんのあごの骨をハンカチに包んで、自分のポケットにそっと入れた。妻の死について多くを語ることはなかったが、夫婦のきずなは生や死を超えたところにあったのだろう。

希林さんは東京・港区内にある内田家の墓で眠っている。生前には「死んだ後は同居ね」と笑っていたという。40年以上の別居婚を経て、やっと一緒になる。【小林千穂】