歌手長渕剛(62)が映画「太陽の家」(20年公開、権野元監督)に主演する。

4月1日からクランクイン。今年はデビュー40周年の節目で、約20年ぶりに“俳優”としてスクリーンによみがえる。長渕が、映画への熱い思いを語った。

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映画「オルゴール」(83年)やドラマ「トンボ」(88年)などに主演し、俳優としての地位も確立した長渕。だが、映画「英二」(99年)を最後に、銀幕から遠ざかっていた。そこには、日本映画に対する愛ゆえの反骨があった。

「10万人を想定した野外コンサートをそれこそ決死の覚悟で作り上げた。そういう精神性があったから、生意気ですが、日本映画と海外映画を比較した時に、どうしても日本映画の限界を感じて『そんなことでどうすんの』と思っていた時期もあった」

だが、日本映画には日本映画の良さがあると思うようになった。同じクリエーターとしての「熱さ」「執念」を感じ、その中に身を置きたいと思った。きっかけは子どもの成長だった。

「世代が変わり、やがて自分も朽ち果てるということを30代で作家然として偉そうに考えていた自分が、よりリアルになってくるわけです。自分の分身がいるということは、やっぱりすてきなことだと思います。どのような形であれ」

長女の文音(30)は女優として活動中。同じフィールドに立つことを「夢にも思っていなかったので感慨深いです」と語った。

長渕演じる川崎信吾は、おせっかい焼きだが神業的な腕を持つ大工の棟梁(とうりょう)だ。「ピストルや刃物じゃなくなっただけよかったですよ。またかと言われるのはいやなので」と笑うが、クランクインに向けカンナやノミなど道具の扱い方も練習中だ。

「愛と信念」をテーマに、長渕が思う家族の理想像を描く。「大上段に構えるのでなくクスッと笑えるような日常が折り重なって、最終的に『子どもっていいな』『親子の情愛っていいな』『血のつながりだけじゃないよな、愛情って』というもので、なんとなく温かい気持ちになれるようなところにしたいですね」。

「縁のつながりは切ってはいけない」。そんな日本映画だからこそのテーマも投影する。「なかなかそのような家族を作りたいと思ってもそうはならないことのほうがきっと多い。それでもやっぱり、男はそこに理想を求めて戦っていくのではないかと思います」。

長渕の俳優第二章が始まる。【川田和博】

▽太陽の家 神業的な腕を持つ大工の棟梁(とうりょう)川崎信吾は、普段はサングラスのこわもてだが、やんちゃで人情味の厚い。気にかけたシングルマザー池田芽衣と父親を知らずに育った龍生のために家を作ろうと思い立ち、周りの不穏な空気も気にせず、家づくりに没頭する。そんな川崎の前に、突如龍生の父と名乗る男が現れる。単純だが実直な1人の男の「愛」が、不器用で臆病な少年の心を成長させ、人と人との「愛」を爽快に描く。

◆長渕剛 1956年(昭31)9月7日、鹿児島県生まれ。78年「巡恋歌」でメジャーデビュー。ソロアーティストとしてアルバム初登場1位獲得数12作品を誇る。04年桜島オールナイトライブで7万5000人、15年富士山オールナイトライブで10万人を動員。俳優、詩人、画家、書道家としても才能を発揮している。