元宝塚歌劇団雪組トップたかね吹々己(旧芸名・高嶺ふぶき)が、5月に甲状腺乳頭がんの手術を受けるのを機に、芸能界を引退する。

引退後は、山口・周防大島で、旅館のおかみに就き、イベントのプロデュースも手がける予定。4月10~12日には京都府立文化芸術会館で、「劇団とっても便利」のミュージカル「美しい人」に特別出演し、女優人生の集大成を届ける。

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たかねは96年に雪組トップに就き、97年に退団。以後は女優として、美声を響かせる歌、圧倒的なオーラを放つ表現力豊かな芝居を武器に活動してきた。昨年の検査でがんが判明。同じ頃、元上級生から旅館の話が舞い込んでいた。

「手術をすれば日常生活に支障はない。でも、自分が思っているよりも、歌声をコントロールできなくなる。今のように歌えなくなるのは自尊心が許さない」として転身を決意した。

今回の舞台は、「劇団とっても便利」の代表で脚本家の大野裕之氏により、02年に初演された「美しい人」。不況で失業者数がふくらみ、政府が、美術館をホームレス収容兼展示施設に改装し「動物園」ならぬ「人間園」を作る。人間の尊厳を問うストーリーで、たかねは「この人(大野氏)は(先を読み、占う)水晶玉を持ってるの! 時代が後から追い付いてくる」と話す。

大野氏とは関係が長く、07年からたびたびミュージカルに出演。08年には大阪・新歌舞伎座で松井誠の公演があり、たかねも出演していた。大野氏は、たかねの引退には「一声発しただけで『たかね吹々己』と分かる唯一無二の声」と惜しみ、たかねの女優人生最後の脚本を仕上げた。

故松方弘樹さんの最後の映画となった「太秦ライムライト」も手がけた大野氏は「結果的に最後のセリフを書いた。そうなると、プレッシャーですよね」。すると、たかねが「ううん! 私、死ぬわけちゃうから!」と、いまだ出る関西弁でつっこんだ。息もぴったり、信頼関係も強固だ。

今作は18年ぶりの再演で特別出演するたかねの役は、象徴的存在「大きな鳥」の設定。鳥を象徴する羽根をイメージした衣装で、たかねは「人間だけど人間じゃない。でも、私だって分かりますよ。着ぐるみじゃないから」と笑わせた。

「もう、人生の半分は生きた。まあ、十数年、竜宮城(宝塚)にいたから、その分はマイナスせなあかんと思うけど(笑い)。とにかく、その深みとか、最後にバーンと放出して、大きな鳥が飛び立って行くかのごとく、バサッと新たなとこに『さいなら!』と、飛び立っていけたら」

つねに前しか見ず、人生のひと区切りを前に意気込んでいる。【村上久美子】