外出自粛の日々が続いていますが、こんな時こそ「時間がある時に」と後回しにしていたことを実行してみませんか。ニッカンコムでは、女優で作家の中江有里さん(46)に、「おうち時間」に読むことをおすすめする本5冊を選んでいただきました。年間300冊以上の本を読むという芸能界でも有名な読書家の推薦を参考に、思索にふける時間を楽しんでみてはいかがでしょうか。

◆伊坂幸太郎著「逆ソクラテス」(集英社)

いずれも小学生が主人公の短編集。決して子供向けではなく、かつて子供であった大人へ向けた作品。子どもたちが大人の先入観を鮮やかにひっくり返していく表題作は痛快。気付けば読み手側の思い込みもあらわになり、ひっくり返されるたびにハッとする。理不尽な世界をあきらめないで変えようとする子どもたちの前向きさが素直に心地よい。ストーリー、文体、構成、どれも心地よい著者デビュー20年記念の1冊。

◆澤田瞳子著「火定」(PHP研究所)

天平時代、奈良を襲った天然痘。死をもたらす病と闘う町医者、やる気のない若き下級官僚、そして上役に陥れられたことを恨みの持つ元医師。視点を変えて感染症拡大に混乱する人々を描く。カミュ著「ペスト」が注目されているが、かつての日本で起きたパンデミックを小説化した本作も現実と重ね合ねるところが多い。時代が変わっても感染症に揺れる人間は変わらない。ついに天然痘が癒えていく小説のラストを現実が追いかけてくれるのを祈った。

◆呉勝浩著「スワン」(角川書店)

大型ショッピングモールで起きた無差別殺傷事件。犯人の自死によって事件は終わった。その場に居合わせながら生き残った高校生・いずみ。しかし週刊誌で(犯人から命令されて、いずみが次の殺害者を指名した)と報道されてから彼女の生活は一変する。理解不能の犯行も怖いが、彼女を糾弾する匿名の人々も相当に恐ろしい。社会にはびこる「自警団」のような輩は正義を語りながら、弱い人を追い詰めていく。

犯人不在の中で、いずみと同じくショッピングモールにいた人々と真実を追う。

不気味でミステリアスな空気に手に汗握り、胸締め付けられた。

◆マーク・ボイル著 吉田奈緒子訳「ぼくはお金を使わずに生きることにした」(紀伊國屋書店)

お金を使わずに一年を暮らした29歳の若者のノンフィクション。切り詰めて生きるのではなく、豊かに暮らすことを目指す姿は興味深い。消費社会において、手元にお金がないという不安は計り知れない。でもお金がなくても生きていけるという道があれば、もっと精神的には楽になりそう。

そのヒントは「シェア(分かち合い)」。こういう生活を目指すならお金より人間関係が大事。消費社会が終わったあとの、サスティナブル(持続可能)な生活の1つの在り方を示している。

◆桐光学園中学校・高等学校編著「高校生と考える日本の論点2020-30」(左右社)

作家や芸術家など多彩な講師を迎えた高校生向けの講義をまとめた一冊。混沌(こんとん)とした時代にどう生きていくのかについて、講師たちは自らの過去を語りながら、未来への視座を示してくれる。時間ある時に何かを学びたくなるのは、人の習性なのかもしれない。中でも沢木耕太郎氏が代表作ともいえる「深夜特急」を書くまでの人生のくだりは、ひきつけられた。ひとりひとりの講義を読みながら、思考を巡らせる時間が楽しい。学生時代にいい授業を受けた後、素晴らしい映画を見た後のような充実感を覚えた。