映画「無頼」シリーズ、刑事ドラマ「西部警察」、などで知られる俳優渡哲也(わたり・てつや)さん(本名・渡瀬道彦=わたせ・みちひこ)が10日、肺炎のため都内病院で死去したことを14日、所属の石原プロモーションが発表した。78歳。

「西部-」で演じた役柄から団長と親しまれ、石原裕次郎さん没後、石原プロを支えた。14日に家族葬が営まれた。喪主は妻俊子(としこ)さん。お別れの会は故人の遺志により行わない。

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渡哲也さんが、最後に取材陣の前に姿を見せたのは、2015年(平27)11月10日に都内で行われた宝酒造「松竹梅」新CM撮影の時だった。急性心筋梗塞で同6月10日に緊急入院しており、約1時間の撮影後の取材は、体調を考慮して車の中から応じる予定だった。それが、渡さんは「車の中でやるのは失礼。俺はイスに座ってやる」と自ら希望し、スタジオの外に急きょ、イスが設置された。

舘ひろしをはじめ、全員集結した石原軍団の面々が不安そうな顔で見つめる中、渡さんは「心筋梗塞は良くなったんですが、呼吸器疾患の方がありまして。血中酸素が足りなくなり、動いたり長いセリフを言うと息切れする。とにかく動くことが非常に苦痛」と口にした。声はかすれ、呼吸するのも苦しそうで口をすぼめて息を吸っていた。体調が悪いのは明らかだった。

その中、会見の最後に一部のカメラマンから立ち姿の撮影をリクエストされた。現場は緊張感が走り、関係者は一斉に制したが、渡さんは「大丈夫だよ!!」と大きな声を上げて立ち上がった。怒気をはらんだと言っても過言ではない迫力に、涙目になって撮影を止めに入っていた舘も、背筋を伸ばして引き下がった。

日活で一時代を築いたスターの誇りを見た思いだったが、それ以上に感じたのが担当として石原プロを追い掛ける記者への心遣いだ。渡さんは、どんなに体調が悪くても、話しにくいことであっても、担当記者が取材を希望すれば応じた。実弟の渡瀬恒彦さんと40年ぶり2度目の共演を果たした11年のTBS系ドラマ「帰郷」の撮了の際も、公の場で口にすることがなかった弟への思いを語った。

「身内なんで非常に言いにくいですが、私をはるかに超えた俳優になった。弟はフォーク、スライダー、カーブを投げられるが僕はボール気味のストレートしか投げられない」

渡さんはプロとして、男として、どうあるべきかを記者に教えてくださった。【村上幸将】