NHK連続テレビ小説「エール」が好調だ。コロナ禍での中断があったり、最終的には10話分の短縮が決まってしまったが、確実にお茶の間に爪痕を残している。

中でも10月12日の週に放送された第18週「戦場の歌」は圧巻だった。窪田正孝演じる主人公の古山裕一が、太平洋戦争の中で最も無謀とも言われたインパール作戦が行われているビルマ(現ミャンマー)に慰問に向かう。恩師の藤堂(森山直太朗)と再会するもつかの間、凄惨(せいさん)な戦場を目撃してしまう。今作はジャングル内での部隊を再現し、激しい爆発シーンも演出。朝ドラとは思えないほど、戦場を描写した。恩師を含めた隊員は戦死するが、自分だけは生き残る。そして、恩師から最愛の家族への手紙を託され、遺族に届ける役目を仰せつかる。

関係者によると、朝ドラの歴史の中で、これほどの戦争シーンが放送されたのは初めてのことだという。それも回想シーンではなく主人公が登場して描かれたのは、ある意味大きな決断だったと思う。

もともと朝ドラは女性の主人公が多い。朝の時間帯の作品だけに、視聴者に元気を与える、前向きな作品が主流だ。「エール」もご多分にもれず、スタートから明るい作品だった。窪田が演じる主人公は、どういう表現が適切なのか難しいが、「ひょうひょう」と描かれてきた。別の言葉で言えば「とっぽい」とも感じてきた。だが、今回の戦場シーンを見て、この時のために、あえて落差を表現するために、そのようなキャラ作りをしてきたのではないかと思った。

ドラマは創作部分もあり、裕一のモデルの古関裕而さんは、実際にインパール作戦の部隊を慰問したわけでもない。それでも、主人公の裕一に戦場を経験させたことが、後に生み出す「長崎の鐘」などの楽曲に大きな影響を与えたのではないかと、ドラマを見て確信するようになった。古関さんの内心まではわからないが、「長崎の鐘」をあらためて聞いて、そう解釈している。【竹村章】