ラーメンズ小林賢太郎(47)がパフォーマーを引退してしまった。「してしまった」という言葉に個人的感情が透けて見えるが、そこは否定しない。10年以上コンビでの活動はなく、小林が17年に個人事務所を設立後、相方片桐仁(47)もレギュラーラジオで「ラーメンズの」と名乗ることはなくなっていた。来るべき時が来てしまった、というのが率直な感想だ。

高校時代、姉が友人から借りてきた「零の箱式」という公演のVHSでラーメンズを知った。とにかく腹がよじれるほど笑った記憶がある。大学進学で上京してから彼らの過去公演のビデオをむさぼるようにレンタルしていたので、05年の本公演「ALICE」では初観劇の機会に小躍りした。

劇場の座席に置かれたチラシの分厚さにも驚かされた。お笑いと演劇の中間のような作品の性質上、本格的なお芝居からコントライブまで、チラシの内容はさまざま。ラーメンズをきっかけに「観劇」の入り口に立つと、束の中から次は何を見に行こうかと数珠つなぎのように次の作品を探すことが楽しみになった。

東京では日々何かしら上演されていることに驚いたと同時に、こんな世界があるのかと、新しい扉が開いた気がした。貧乏学生なりに劇場に通うようになり、お気に入りも見つけた。ラーメンズは私に新しいエンターテインメントを教えてくれたのだった。

その後も本公演と聞けばチケットの争奪戦に臨み、漏れれば当日券を狙って早朝から劇場前に並んだ。体力もあった。小林の引退を聞いて、すっかり忘れていた大学時代の日々を思い出した。

引退はあくまで「パフォーマー」であり、劇作などクリエーターとしての活動は続く。公式サイトでは、予定のない真っ白なスケジュール帳を写真に撮って「あまりの視界の広さに興奮しております。まるで広場でリードを外された犬です」。自虐的に語りながら、すがすがしささえ感じさせた。裏方に徹しての第1作目は、どんなものになるのだろう。