歌手入山アキ子(44)が19日に、埼玉・川越プリンスホテルでディナーショー形式の「ありがとう■感謝のつどい2020」を開催した。10人掛けテーブルを半分にして、定期的にドアを開放し空気を入れ替えるなど、新型コロナウイルス感染症の万全の対策を取っていた。それもそのはず、入山は看護師である。実は感謝のつどいを開く前に、葛藤を抱えていた。それは看護師として現場に戻るべきかどうかだった。

入山は防衛医大看護学院を卒業し、国家公務員である防衛省技官(看護師)として、胸部外科主任などを歴任。その後、歌手に転身した経歴を持つ。日本でも感染が拡大し「1つの選択肢として、医療現場に戻ることを考えました」という。呼吸療法認定士の資格も持ち、実際に「(コロナ感染の)軽症者をまとめる責任者に就いて欲しい」という依頼も受けた。

「同僚は最前線で戦っている。戻るなら、歌の道を断ち切って行くしかない」。入山は激しく葛藤した。そして、考え抜いた末に「私は歌う看護師として、知名度が上がれば(健康アドバイスなどで)もっと大きな力を使えることを目指したのだから、今は中断せずに、そこを目指し続けようと思いました」。

自身の誕生日の9月9日に新曲「月に笑う蝶」(作詞・緑子、作曲・大谷明裕、編曲・伊戸のりお)を発表した。「どん底」がキーワードの歌詞と、コルネットバイオリン(ラッパ付きバイオリン)の哀愁漂う独特の音色が印象的な異色作だ。「生きるか死ぬかの崖っぷちで、でも生きるという女性の歌です。苦しくても、一筋の明かりを求めてみんなで舞い上がろうという応援歌です」。

新曲のジャケットは、青色の着物姿に背景も青。普通ならあまり用いない配色である。入山がこだわった。3月下旬、イギリスで新型コロナウイルスと戦う医療従事者へ感謝を示すため、ロンドンの主要な施設が青色にライトアップされた。その行為が世界に広がり、日本でもスカイツリーや大阪城などが青く照らされた。入山はジャケットを青色にすることで「感謝」と「応援」の気持ちを伝えたかったのだ。新曲は同僚への応援歌でもあり、ジャケットの青は歌う看護師として、自分も一緒に戦うという決意の表れだった。

4月からファンを中心とした健康相談を電話で受けている。深刻と感じると直接会いに行ったり、救急車の手配をすることもあるという。「コロナで歌えない分、看護師の比率を高くして、お役に立てればという気持ちです」。

感謝のつどいでは、来場者が精いっぱいの拍手で、入山を応援した。その拍手は「これからも歌手として私たちに元気を与えてほしい」という願いにも聞こえた。【笹森文彦】<ニッカンスポーツ・コム/芸能番記者コラム>

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