日々、映画の舞台あいさつを取材し、俳優の話を聞き、原稿を書いている。その中で、1つの言葉から、ふと、その俳優を過去、取材した原稿や資料、音声を読み返したり、聴き返したくなることがある。最近、そういう感情が沸き起こってきた俳優は、有村架純(28)だ。

有村は8日、都内で行われた日米合作の「映画 太陽の子」(黒崎博監督)初日舞台あいさつに登壇し、トークの中で共演した田中裕子(66)の演技に非常に感銘を受けたと語った。主演の柳楽優弥(31)演じる京都帝国大理学部の学生・石村修と有村演じる幼なじみの朝倉世津が、三浦春馬さんが演じた修の弟の陸軍下士官・裕之が再び戦地に向かうのを、田中演じる母フミが見送る様子を、近くから見守ったシーンだ。

有村 現場で見ていたんですけども、この時の田中さんが演じたフミさん、ひと言も発していないですよね、セリフを。日ごろから私自身も、セリフのない時間を丁寧に考えるようにはしているんですけども、改めて言葉で表現できないものが、やっぱりあるんだなと確信しましたし、自分自身もセリフにとらわれず、言葉で発する以外の思いというのを、もっともっと、熱量を高めて表現していきたいなと、自分としても勉強させて頂いたシーン…そういうことを改めて思う時間でした。

映画は企画が立ち上がり、撮影しても公開がなかなか決まらず、舞台あいさつで俳優陣が語る話も、数年前のことを思い出しながら語ることが少なくない。「映画 太陽の子」の撮影も2年前に行われているが、有村の語る言葉は、まるで昨日のことのようにみずみずしく、田中の演技からインスパイアされたものが、どれほど大きいかが伺えた。

「セリフのない時間を丁寧に考えるようにはしている」という有村の言葉を如実に感じさせられる映画が「るろうに剣心 最終章 The Beginning」(大友啓史監督)だ。有村は劇中で、主演の佐藤健(32)演じる伝説の剣客「人斬り抜刀斎」こと主人公の緋村剣心の妻・雪代巴を演じた。巴は、窪田正孝演じるいいなずけの清里明良を殺した剣心に報復を果たすために近づいたが、ともに生活していく中で、剣心から人を斬ることや人生について疑問や思いを投げかけられ、苦悩するその純粋さに徐々にひかれる。一方の剣心も巴と暮らしていく中で、ささやかな生活の幸せを知っていく。そうした役どころだけに、巴のセリフはそれほど多くはないが、その分、剣心を見詰める瞳や表情だけで、映画を見る観客に多くのことを伝えてくれる。有村の演技と「-The Beginning」の評価は、映画をしっかり見て取材する映画記者、ライターの間で高かった。

記者は、若手と言われた時代の有村を何度かインタビューしたことがある。そのうちの1つが、14年のスタジオジブリのアニメ映画「思い出のマーニー」(米林宏昌監督)だ。同7月2日に都内で行われた完成披露試写会の壇上で、有村は感極まって涙した。

「収録をした日から今日まで、あまり(出演した)実感が湧かなくて。いい作品に自分が参加できているということが、本当に夢みたいで。声優も本当に初めて挑戦させていただいたので自分の中ですごく不安もあったんですけど、こういう風に舞台に立てていることをすごくうれしく思う」

その試写会の前に行った取材の音声を聴き直してみると

「オーディションだったというのが、すごく自分の中で大きいし、自信につながる作品になってくれたと思う」

「私は、人に恵まれた環境に育ってきたので(演じたマーニーのことを)そこまで分かってあげられなかったかも知れないけれど、強がったりする部分は。人に言わなかったり、言えない部分があるので、そこは共感しました」

などと語っている。

15年5月1日に都内で行われた、主演映画「ビリギャル」(土井裕泰監督)初日舞台あいさつの音声も、残っていた。有村は劇中で、学年で成績はビリだったが1年で偏差値を40上げて慶大に現役合格する女子高生を演じたが、トークでは、母への思いと、役どころと比較しての、若き日の自身について語っていた。

「母は怒る時、すごく怒ってくれる。『女優になりたいんだよね』と話をした時、すごく背中を押してくれた。オーディションにいっぱい落ちて、やる気を失った時『あんたが、そんなんでどうするの』って怒って、背中を押してくれた」

「私の頭の中は、女優になりたいという思いでいっぱいで。何を1番、頑張りたいかと言われると、自分が夢に向かって取り組んでいくことだったので、ひたすらオーディションを受けて、やっていましたね」

「(つらい時、どう乗り越えたか?)私はイメージを膨らませて、その時、自分はこうなっていたい、ああなっていたいとドキドキ、ワクワクして過ごしていた」

過去の、どの取材や舞台あいさつを振り返っても、有村はしっかりと考えたことを、自分の言葉で我々メディアや観客に伝えようとしていると感じる。興行収入38億円を突破した「花束みたいな恋をした」を含め、有村が登壇した舞台あいさつを今年に入り、何度も取材したが、その姿勢は全く変わりがない。そして、どの作品を見ても、本当に真剣に向き合い、役をしっかり考えて臨んでいることがスクリーンからも伝わってくる。監督、製作者からも、有村の取り組み、演技への称賛の声を聞くことは少なくない。

現在、28歳。あと2年で30代となる有村に、久しぶりに直接、時間を取って話してみたい…時間の許す限り。【村上幸将】