A.B.C-Z戸塚祥太(34)主演の舞台「フォーティンブラス」を観劇した。

同作は、劇作家の横内謙介氏が、長いハムレットの物語の中で2回だけ登場する、ノルウェーの王子「フォーティンブラス」にスポットライトを当てて90年に書き下ろした作品。古ぼけた劇場で、脇役俳優の悲哀や劇場で生活する人々の感情を描いた物語だ。

戸塚や、劇中劇でハムレット役を演じるスター役の内博貴(34)、劇中劇でオフィーリア役を演じるアイドル上がりの女優役の能條愛未(26)らはもちろん目立つ存在だったが、劇中劇で脇役の売れない貧乏女優・石田恵子役を演じた吉田美佳子(22)も強い存在感を発揮していた。

吉田は14年に舞台「つか版・忠臣蔵~大願成就討ち入り篇」でデビューし、今年6月から放送されたNHK連続ドラマ「ひきこもり先生」で主人公・佐藤二朗(52)の娘役を好演するなど注目を集めている女優だ。

「フォーティンブラス」については、昨年12月に劇団「扉座」が実施した朗読劇版に出演するなど、縁があり、舞台出演が決まると「いつか演じたいと強く願っていた作品なので、心からうれしいです。全身全霊で臨みます!」などと意気込んでいた。

作品の中では、演劇が大好きで、演技に真摯(しんし)に向き合うも、横暴なスターに詰め寄られ、彼氏が売れるために拒めずにいる立場の弱い女優役だった。舞台上に常に登場している役柄ではないが、ひたすら謝り倒すお辞儀の角度の深さや、薄汚いえんじ色のジャージーの着こなし、どこか切羽詰まったような、悲哀に満ちた表情など随所で印象を残した。セリフを発するタイミングや間、動作、他人のセリフ時の表情やリアクションなど、役柄と同様、作品に対して誠実に、丁寧に取り組む姿勢を感じた。

以前吉田は、舞台初出演時に、経験豊富なベテラン俳優が、少ないセリフでも、居残り稽古を重ねている姿を目の当たりにして、圧倒されたとインタビューで話していた。以来、舞台を中心に経験を重ね、4月にも舞台「フラガール」に出演し、トレードマークのおでこを出した、はじけるような笑顔で観客を魅了していた。

偶然にも舞台上演期間中の24日から、「ひきこもり先生」の再放送が始まった。秋にかけて、新たな映像作品への出演も決まっているという。舞台に映像に、吉田の活躍が止まらない。【佐藤成】