トラベルミステリーの第一人者で「十津川警部」シリーズなどで知られる作家西村京太郎(にしむら・きょうたろう)さん(本名矢島喜八郎=やじま・きはちろう)が3日午後5時5分、肝臓がんのため神奈川県湯河原町の病院で死去した。91歳。葬儀は近親者で行った。

後日、お別れの会を開く。喪主は妻瑞枝(みずえ)さん。

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関係者によると西村さんは、昨年末から体調を崩して入院していた。25年ほど前に脳血栓で倒れたが、リハビリを続けながら執筆活動を続けた。17年には刊行作品が600冊に到達、90歳を超えても創作意欲は衰えなかった。19年にシリーズ大衆文学と著者に贈られる吉川英治文庫賞を受賞した際にも精力的に執筆していることを話し、戦争をテーマにした作品への意欲も語っていた。

西村さんは、臨時人事委員会(現・人事院)在職中から作家を志し、30歳を前に退職。アルバイトをしながら懸賞小説の応募に励んだ。パン店の運転手、本の取次店、探偵事務所でも働いた。日刊スポーツのインタビューには、探偵時代の経験として、息子を結婚させたくない母親がうその調査書を書いてほしいと頼みに来た時は「好きな方を使ってくれ」と、事実とうその2種類の調査書を渡したことも振り返った。さまざまな職種で得た題材と観察眼が、小説に生きた。

63年にオール読物推理小説新人賞を受賞したが、当初はヒットに恵まれなかった。生活が一変したのは78年、当時人気だったブルートレインに着眼した鉄道トラベル第1作「寝台特急(ブルートレイン)殺人事件」がベストセラーになってから。旧国鉄の「いい日旅立ち」キャンペーンなどの旅行ブームに、旅情を誘う小説の内容が重なり、十津川警部シリーズ、トラベルミステリーは西村さんの代名詞になった。

時刻表を駆使した鉄道トリック、新路線や交通機関をいち早く取り入れる作風は他メディアからも注目された。十津川警部シリーズは、テレビ朝日、TBS、フジテレビ、テレビ東京など複数の局でドラマ化され、映像、ゲームなど幅広く展開された。メディアミックスの点から見ると松本清張氏と並び立ち、作品が小説の枠を超えた存在となった。高額納税者番付の常連で、同番付発表が廃止される05年度まで、7年連続で作家部門1位だった。

作品のため入念な下調べを欠かさなかった。乗車可能な列車、電車にはほとんど乗り、ドアや窓の位置、駅によって開かないドア、ホームの売店の開店時間なども細かく調べた。西村さんは「時刻表に出ていないことが大事」と、鋭い観察眼でアイデアを生み出した。作品が多くてトリックが混乱しないかと問われた時には「それはない。プロですから」ときっぱり。膨大なデータとアイデアは尽きることがなかった。

長く広く愛された作家だった。新作を読むことはもうかなわないが、これまでの作品、今後も作られるであろう映像作品が、多くの人々に届くはずだ。

◆西村京太郎(にしむら・きょうたろう)本名・矢島喜八郎。1930年(昭5)9月6日、東京都生まれ。旧制中学卒業後、臨時人事委員会(人事院の前身)在職中に執筆活動開始。63年に「歪んだ朝」でオール読物推理小説新人賞、65年に「事件の核心」(後に天使の傷痕と改題)で江戸川乱歩賞受賞。十津川警部は76年「殺しのバンカーショット」で初登場。81年「終着駅殺人事件」で日本推理作家協会賞。94年、鉄道功労者として大臣表彰。01年、神奈川県湯河原町に西村京太郎記念館開館。09年、奈良県十津川村の観光大使に任命。00年に瑞枝さんと結婚。

<十津川省三警部を演じた主な俳優(敬称略)>

▼テレビ朝日系 三橋達也、※天知茂、※高島忠夫、高橋英樹

▼TBS系 宝田明、若林豪、渡瀬恒彦、内藤剛志

▼フジテレビ系 小野寺昭、萩原健一、高嶋政伸

▼日本テレビ系 夏八木勲

▼テレビ東京 船越英一郎

(※は代役)

▽伊東四朗(84) 亀井刑事は西村先生ご本人に思えてその役を演じられたことはとても光栄でした。54作を渡瀬恒彦さんとご一緒させていただきました。いちばんピッタリのコンビだったと自負しております(TBS系「十津川警部シリーズ」亀井役)

▽内藤剛志(66) 十津川警部シリーズを演じさせていただいたことはとても名誉なことです。作品の中でもご一緒させていただいたこと、素晴らしい時間を過ごさせてもらいました。(17~19年TBS系「十津川警部シリーズ」主演)

▽船越英一郎(61) 「君の芝居には刑事である前に人間が見える」と言っていただいたお言葉は私の糧であり宝物です。心よりご冥福をお祈り申し上げます。(テレビ東京系「十津川警部の事件簿」主演など、数多くのシリーズ作に出演)