シンガー・ソングライターで俳優の泉谷しげる(74)が発起人となったロックフェスが、9月24日に開催された。

このフェスは「北九州ロックフェスティバル2022 with SDGs spirits」。北九州市小倉のミクニワールドスタジアム北九州で開催された。泉谷をはじめ、森高千里やDISH//、ももいろクローバーZ、175R、オリジナル ラブ、ゴールデンボンバー、岡崎体育、70RDERらが出演した。

泉谷は今回のフェスについて「新しいスタイルのロックフェスを実践する時が来た」と語る。そして「SDGsスピリッツをテーマに、持続可能なロックフェスってやつを、若いやつらと作り上げたいだけ。俺がSDGsなんていうのは似合わないかもしれないが、今や俺たちから変わらないといけないってことだよ。とにかく、サステナブルなロックフェスの最初の年にしたい」と続けた。

泉谷といえば、若い人たちにとっては、ワイドショーのコメンテーターを務めるおじさん、かもしれない。だが、日本の音楽シーンにおいては、伝説のフォーク歌手だ。71年に「泉谷しげる登場」でデビューし、75年には吉田拓郎、井上陽水らとフォーライフ・レコードを作った。映画「狂い咲きサンダーロード」では美術と音楽を担当し、その後は俳優としても活躍。北海道奥尻島救済キャンペーン「一人フォークゲリラ」や「長崎・普賢岳噴火災害救済チャリティコンサート」などなど、チャリティーコンサートをずっと手掛けてきたのも泉谷だ。

このように、プロフィルを書くと、今どきの言葉だと、意識高い系ミュージシャンと理解されるのだろう。そして、ロックは反体制だから、などという言葉を紡いでしまうと、そのような認識になってしまうのかもしれない。

蛇足になるが、先日、某宗教団体の幹部が久々にテレビカメラの前に登場していた。理路整然と語っていたが、印象に残ったのは「左翼系弁護士」という前時代的なワードだった。反体制に左翼。そういえば、70年代フォークは、学生運動との親和性が高かった。

右翼と左翼に保守と革新。いまだに、そんな対立を基軸に置く人も少なくない。でも、今やそんな概念にとらわれるのではなく、SDGsという思想を、どうやって人びとに浸透させるのかが大切なのだ。

だから、泉谷はこのフェスにこんなメッセージを書き込んだ。

「ロックフェスとSDGsに違和感ありと思う方も多いだろうが、今やロックフェスは反体制の象徴ではなく、地域活性化イベントなのだ。地球環境問題をシカと受け止め、持続可能なイベントをめざし、開催する地域と集まる観客に、より、快適であれをテーマに…」と。

新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、エンターテインメント業界は大きな打撃を受けた。泉谷にとっても、意識を大きく変えるキッカケになったという。

「これからの時代は若いアーティスト、次の世代のアーティストと一緒にロックフェスの新しいフォーマットを作り上げないとダメだってことに気づいたんだ」と振り返る。

さらに「実はロック・フェスは危機的な状況になっている。その1つが値段が高過ぎること。だいたい1万円以上がザラだろ。とてもじゃないけど、そんな金額では、若いやつらが楽しめない。要するにオヤジしか楽しめないようなフェスをやっていてはダメだってことさ」とした上で「まずフェスを山の中とかでやっていること自体がおかしい。結局は動力ばかりか、燃費も悪く経費もかかるのだから…。だったら、いかに便利なところと、アクセスの良いところ、すぐ近くに病院のある場所で、いかにリーズナブルな値段のフェスを開くかということが、結局はサステナブルな取り組みになる。そう言った意味では小倉駅から歩いても数分と言うミクニワールドは絶好の会場だってこと」と語った。

泉谷の言葉に、耳が痛いイベンターも多いことだろう。広大な広場を探し、何十台ものトラックで機材を運び、大自然の中で行うライブも、意味がないとは言わない。でも、何もない場所で行うのはコストがかかるし、交通網が脆弱(ぜいじゃく)だと、観客にとっては不便この上ない。

だからといって、東京のど真ん中ばかりで行われたら、地方に住むファンにとってみれば、それこそ一極集中への批判を浴びせたくもなる。

そんなフェスの現状を代弁しているのが泉谷なのだ。目新しさよりも持続可能。出演者も観客もイベンターも、誰もがウインウインになるライブを開催したい。泉谷が語る、率直な言葉を、再度、かみしめてみたい。【竹村章】