映画業界において持続可能なシステムを日本国内に作ることを目指す、日本版CNC設立を求める会(action4cinema)は27日「日本版CNC、なぜ必要?」と題した約8分の動画を制作、公開した。そのナレーションを、趣旨に賛同した俳優の仲野太賀(30)と二階堂ふみ(28)が務めた。

動画では、フランスの映画業界の実例を紹介。フランスでは映画館やテレビ、配信サービスなどを介して映像作品を見る際に、観客が支払った料金の中から約11%が税として徴収され、映画行政を管轄する国立映画映像センター(CNC)に集められる。その資金が、支援が必要な場所に助成金として分配され、製作環境、人材が培われることで、より豊かな作品が生み出され、再び観客のもとへ届けられ再分配、循環する仕組みになっている。製作環境の改善だけでなく、教育や映画館への支援も可能になる。韓国にも同様のシステムとして韓国映画振興委員会(KOFIC)があり、観客が支払った料金の中から約3%が業界支援に回される。

一方、日本にはそういった機関も収益をリサイクルする仕組みもなく、世界一高いと言われる日本のチケット料金からは、1%も映画、映像業界に還元されていないのが実情だ。動画では、心身ともに疲弊する現場の過酷さやハラスメントの存在、契約書も交わされずフリーとして補償がないまま働くという、映画・映像業界の劣悪な労働環境の中、働き手の自力に頼ってきた映画・映像業界において、働き手が減り、深刻な人手不足に陥っている実情も紹介。閉鎖に追い込まれる映画館も後を絶たないと訴え、境界全体でこの状況を改善する必要があると指摘している。

日本版CNC設立を求める会は、次の4つの支援を打ち出している。

<1>「労働:誰もが安心して働ける環境に」 過重労働やハラスメントが起こる労働環境改善、ジェンダー平等の促進に取り組み、経験や立場の違うすべての人が働きやすい業界を目指さなければなりません。

<2>「制作:豊かな作品を作るための幅広い支援」 企画開発や撮影現場などにも充実した支援を行き渡らせることで多角的で豊かな作品づくりが実現します。

<3>「流通:多様な作品に出会う機会を」 コロナ禍でダメージを受けた映画館などが支援されることで、観客は多様なジャンルの作品を鑑賞できるようになります。日本の作品を世界に発信し他国の文化を知るきっかけとなる作品に出会うとても重要な取り組みです。

<4>「教育:観客そして未来の作り手を育む」 今では誰もが手軽に映像を撮ることができますが、映像の見方や作り方を学ぶ機会は限られています。子どもたちが映像文化に親しむ機会を増やすことで見る目が養われひいては、未来の作り手や観客を育むことにつながります。

仲野と二階堂は、日本版CNC設立を求める会を通じてコメントを発表した。

仲野 日本版CNCの設立はとっても画期的なアイデアだと思いました。CNCとはなんぞや? と、疑問も浮かぶかと思いますが、多くの方の理解を得るために、とても分かりやすい動画が出来上がりました。こんなタイミングで、二階堂さんと久々に再会できたのもうれしかったです。未来の日本映画のために、業界が本当の意味で助け合うタイミングなのかもしれません。関係者もそうでない方も、ぜひ動画見てみてください!

二階堂 幼い頃から映像の世界に多くの恩恵を受けてきました。憧れの世界に入り、俳優部としてさまざまな現場に育てていただいたと感じております。しかしその一方で、当たり前に続いてしまった過酷な労働時間やハラスメントなど、多くの問題があることも実感してます。日本の映像現場、システムにおける課題を、1人でも多くの映像作品を愛する人たちに知っていただきたいと思い、この取り組みに参加させて頂きました。監督はじめ多くのスタッフ、キャストと1つの作品を作り上げる現場は、常にクリーンでクリエーティブな場所であってほしいと思ってます。素晴らしい日本の作品を未来に残せるよう、映像現場に携わる1人として、このaction4cinemaの取り組みに賛同致します。

日本版CNC設立を求める会は、運営メンバーに是枝裕和(60)諏訪敦彦(62)内山拓也(30)岨手由貴子(40)西川美和(48)深田晃司(43)舩橋淳(48)の各監督が名を連ね、20年から話を進めてきた。22年6月には都内で会見を開き、設立の意義と日本映画製作者連盟(映連)とも21年から話し合いを続けてきた経緯を説明した。

その中で、是枝監督は、財源として想定している劇場からの興収と放送、配信事業者からの徴収について「映連を敵に回したいわけじゃないですが、映連と1年、話をしても絶対、不可能だと言われ、動かない。映連の中でも考えを共有できている人もいるが(財源の扉は)開いていない」と指摘。「業界全体が1枚岩になって、初めて公的な連関に向かうべき。お金を出してもらうと口を出す、というところの意識改革をし、どう巻き込んでいくか。文化庁、経産省の垣根をどう取っ払い、合流させていくかが、その先に必要」と強調した。

今年1月に都内で開かれた、映連の新年記者発表の質疑応答でも、報道陣から日本版CNC設立を求める会との話し合いの現状について質問が出た。労働環境改善、人材育成のために興行収入(興収)から数%当てる案に関し、どう思うかとの質問に、島谷能成会長(東宝会長)は「1年くらい前から、我々の事務局あるいは製作部会のメンバーが、是枝さん以下と、ずっと話し合いを重ねてきた。意見の相違もあり、なかなか一朝一夕に前に進むお話ではない。現状も話し合いを進めている」と、日本版CNC設立を求める会との間に相違点があると言及した。

一方で、島谷氏は「映画界全体が、製作現場の適正化、自主的に保障し、良い形にしていこうという取り組みを、19年から始めている。経産省からもサポートを受け、オフィシャルな会議だけで39回。そこで、のべ873人が加わって、いろいろな話し合いを現在も続けている」と、映連なりに努力はしていると主張。さらに、映連を構成する東宝、東映、松竹、KADOKAWAの作品において「あるルールに基づいて作ったら、どうなるかという」(島谷氏)実証実験を2回、行ったことも合わせて説明した。その上で、島谷氏は「まだ、はっきりとは申し上げられないが、近日中には何とか、お金を出す側、それを受けて作られる側、実際に現場で監督と一体となって仕事されるスタッフの方々の合意を取り付けた上で、きちんとした発表をさせてもらいたい」と、日本版CNC設立を求める会からの提案に対し、何らかの発表をする考えを明らかにした。

島谷氏は、会見の最後に「方向性については、是枝さんも賛成してくれている。我々の考えと彼らの考えは、この方面では同じ方を向いている」と、あくまで映連としては日本版CNC設立を求める会との方向性は同じだと強調した。それから2カ月がたとうとしている中、日本版CNC設立を求める会が動画を公開した。その活動に、日本の映画・映像業界で活躍する仲野と二階堂が賛同し、ナレーションを務めたことに対し、映連をはじめとした日本の映画・映像業界が、どう向き合っていくか、注視したい。【村上幸将】