音楽家の坂本龍一(さかもと・りゅういち)さんが3月28日亡くなったことが2日、分かった。71歳だった。

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坂本さんの実直さ…そして間違ったものは正すという、強い意志を真正面から、ぶつけられたことがある。2013年(平25)9月にイタリアで開催された世界3大映画祭の1つ、ベネチア映画祭で、坂本さんは最高賞の金獅子賞を争うコンペティション部門の審査員を務めた。

コンペティション部門には、宮崎駿監督のアニメーション映画「風立ちぬ」が出品されたが、最終日の9月7日(日本時間8日)に行われた授賞式で、その名を呼ばれることはなかった。授賞式前に、宮崎監督は長編アニメーション映画製作からの引退を発表しており、イタリアの地元メディアを中心に、引退の発表が審査員の心証に影響を与えただろうと報じていた

授賞式後に、そうした一連の報道についての印象含め、審査の経過、結果について思うところを聞こうと、会場を出てきた坂本さんを直撃した。すると「そういうことは、審査に関係ないです」と、宮崎監督の引退発表が、審査に何ら影響を及ぼさなかったと断言した。さらに、審査の経過についても「2度、事前に話し合い(授賞式前日の)6日に4時間、議論して決めました。質的に飛び抜けて圧倒的にすごい映画はなかった。なかなか選ぶのが大変でした」と自ら明かした。

いくら「日本から取材に来た記者です」と声をかけられたからといって、取材エリアではない場所で答える義務はない。それでも、審査に疑義が生じるような状況が許せなかったのだろう。簡潔に答え、速やかにその場を去った坂本さんの印象は一言…鮮やかだった。

【村上幸将】