是枝裕和監督(60)の最新作「怪物」(6月2日公開)が、世界3大映画祭の1つ、カンヌ映画祭(フランス、5月16日開幕)で最高賞パルムドールを争う、コンペティション部門の出品されることが決まった。13日、同映画祭事務局が発表した。

「怪物」の音楽は、がんで闘病していた中、3月28日に71歳で亡くなった音楽家・坂本龍一さんが担当した。坂本さんは、是枝監督たっての希望で担当も、闘病中で「今回残念ながらスコア全体をお引き受けする体力はなかった」ため、全曲の制作ができず、書き下ろしはピアノ曲2曲にとどまった。そのため、71歳の誕生日を迎えた1月17日にリリースした、約6年ぶりのオリジナルアルバム「12(トゥエルブ)」の収録曲や過去の楽曲も使い、映画全体の音楽を構成した。

坂本さんは14年に患った中咽頭がんは寛解も、20年6月に直腸がんが発覚し、翌21年1月に治療を公表。6月発売の文芸誌「新潮」7月号では、がんがステージ4で、直腸の原発巣と数カ所の転移巣を摘出する20時間に及ぶ外科手術を受けたこと、21年10、12月には両肺に転移した、がんの摘出手術など1年間に大小6つの手術を受けたことを明かしていた。

22年12月11日正午(日本時間)には「この形式での演奏を見ていただくのは、これが最後になるかもしれない」と、同9月中旬に無観客で事前収録したピアノ・ソロ・コンサート「Ryuichi Sakamoto:Playing the Piano 2022」を、世界約30の国と地域に配信。そうした状況を受けて「今回残念ながらスコア全体をお引き受けする体力はなかった。監督からのたってのご所望でピアノ曲2曲を提出した。新しいアルバム『12』からの曲や、古い曲を使って全体を構成してくださった」という。

「怪物」は、自ら脚本も執筆するのが映画製作の基本スタンスである、是枝監督が95年の映画監督デビュー作「幻の光」以来28年ぶりに外部の脚本家である坂元裕二氏(55)を招き、初タッグを組んだ。坂本さんは生前「怪物と言われると誰が怪物なんだと探し回ってしまうんだが、それはうまくいかない。誰が怪物かというのはとても難しい問いで、その難しい問いをこの映画は投げかけている」と作品を評した。

さらに「さて、その難解なテーマの映画にどんな音楽をつければいいのだろう。救いは子供たちの生の気持ち。それに導かれて指がピアノの上を動いた。正解はない」と、書き下ろした渾身(こんしん)の2曲への思いを語った。

坂本さんはカンヌ映画祭と縁が深く、1983年(昭58)にコンペ部門に出品された、大島渚監督の「戦場のメリークリスマス」で初めて映画音楽を担当し、俳優デビューも果たした。カンヌ映画祭での受賞こそならなかったが、メイン楽曲「メリー・クリスマス ミスターローレンス」などで、英国アカデミー賞作曲賞を受賞した。そのカンヌ映画祭で、大島監督から紹介された、イタリアのベルナルド・ベルトルッチ監督の87年のイタリア・英国・中国合作映画「ラストエンペラー」にも出演、音楽を担当し、日本人としては初の米アカデミー賞オリジナル作曲賞に輝いた。

00年には、結果的に大島監督の遺作となった「御法度」の音楽も担当し、同作はカンヌ映画祭コンペ部門に出品された。11年にも、歌舞伎俳優市川團十郎(45)主演の「一命」(三池崇史監督)の音楽を担当し、同作はカンヌ映画祭コンペ部門に出品された。

◆坂本龍一(さかもと・りゅういち)1952年(昭27)1月17日、東京都生まれ。78年「千のナイフ」でソロデビュー。同年にYELLOW MAGIC ORCHESTRA(YMO)を結成し、80年の散開後も多方面で活躍。83年の「戦場のメリークリスマス」で映画に初出演し、初めて映画音楽を手がけ、英国アカデミー賞。87年の「ラストエンペラー」では米アカデミー賞作曲賞、グラミー賞などを受賞した。主な映画音楽の作品は「シェルタリング・スカイ」(90年)「ハイヒール」(91年)「ファム・ファタール」(02年)「トニー滝谷」(04年)「レヴェナント:蘇えりし者」(15)年「怒り」(16年)、「天命の城」(17年)、「あなたの顔」(18年)「MINAMATA-ミナマタ-」(20年)「アフター・ヤン」(21年)など多数。