フランス・日本合作映画「アダマン号に乗って」のニコラ・フィリベール監督(72=フランス)が、日本公開前日の27日、都内の日本記者クラブで会見を開いた。同作は、世界3大映画祭の1つ、2月のベルリン映画祭(ドイツ)で、ドキュメンタリー映画としては2度目となる最高賞・金熊賞を受賞した。

「アダマン号に乗って」は、パリの中心地セーヌ川に浮かぶ、木造建築の船を用いたデイケアセンター「アダマン」が舞台。精神疾患のある人を無料で迎え入れ、歌を歌ったり絵を描くなどの創造的な活動を通じて、社会と再び繋がりを持つことができるようサポートしている。フィリベール監督は質疑応答の中で、アダマン号が実際に航行できる船なのか? と聞かれると「エンジン、ないんです。浮き船です」と笑った。

精神科医療を題材にしたことについては「個人的に、精神科医療に興味がある。とても心の深いところで、私を動かすもの。自分が押し込めているか、弱い傷…うまくいっていないところを照らすからではないだろうか?」と語った。さらに「精神科医療は、我々が暮らす世界の鏡だと思う。患者に会うと予想外のこと、とても驚くべきことがある。えっ!? と思うこともあるけど、刺激的で目を離せなくなる素晴らしさがある。飾り気、フィルターのない明確な反応、明晰(めいせき)な答えがある。私自身、患者にとても癒やされると思う」と語った。

質疑応答の中で、日本の報道では、「精神科医療を受診する患者を取材する際、撮影した患者の顔にモザイクをかけた映像を流すが?」と質問が出た。フィリベール監督は「私は、そんなことはしません。トリックで隠すことは絶対しない」と断言。「その人の言質だけに興味があって、対象として見ないことにはならないだろうか? その人のまなざし、顔が大事。顔を撮らない映画は、映画じゃない…それくらい、不自然なことだと思っています」と答えた。さらに「言い添えておきたいのは今回、撮影した患者は、映画館でちゃんと上映され、DVDになることを知った上で許可してしてくださっている。対象者に、きちんと伝えるのは、重要なことだと思っています」と続けた。

共同製作した、ロングライドの波多野文郎代表は「それほど、映画に貢献していない。一部を負担している関係」と説明。「日本と海外の映画作りの違いが壁になっていると言わざるを得ない。そういう機会が増えて出資、共同製作を増やす意味でも、コラボレーションが重要。海外の資本が入って、日本映画を盛り上げていくのも今後、重要」と語った。