北野武監督(76)6年ぶりの新作映画「首」の製作報告会見が先月15日、都内で開かれた。

会見2日前の同13日には、世界3大映画祭の1つ、カンヌ映画祭(フランス)の1部門「カンヌ・プレミア」への出品が決定。一方で同映画祭での上映を控え、本編は明らかにされておらず、内容は会見後に明かされた概要しか表に出ていない。同監督が19年12月に、自身初の歴史長編小説として書き下ろした原作小説を読み、会見を取材した記者が、明日16日のカンヌ映画祭開幕を前に、ベールに包まれた「首」を読み解く。【村上幸将】

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「首」は、北野監督が初期の代表作の1つ「ソナチネ」(93年)と同時期に構想し、温めてきた企画だ。世界の映画史に残る名作「七人の侍」で知られる黒澤明監督も生前「北野くんがこれを撮れば、『七人の侍』と並ぶ傑作が生まれるはず」と期待した。それが、北野監督が会見で「構想30年というのは3週間の間違いだったらいいんだけど」と口にしたように、温め続けた末、念願の映画化が実現した。

まず、北野監督は19年12月に「首」を、初の歴史長編小説として書き下ろして出版した。帯には「信長を殺れ! 天下を奪え! 誰も読んだことのない『本能寺の変』がここに!」と記され、同監督は「戦国時代小説を楽しめ! 北野武」との、直筆のメッセージを記している。

小説版は、羽柴秀吉と千利休に雇われ、謀反人と逃げ延びた敵を探す旅をしていた曾呂利新左衛門(そろり・しんざえもん)が、織田信長に反旗を翻して有岡城から逃走する荒木村重を、雇われスパイの甲賀者チビとデカブツとともに偶然、捕らえ、身柄を利休に託す。その新左衛門が、戦で功を立てようと播磨へ向かう秀吉の軍勢の雑兵に紛れ込むも、思わぬ敵襲に遭った丹波篠山の農民・茂助と出会う。その4人が、秀吉、明智光秀、徳川家康ら戦国大名を巻き込んだ、首の価値をめぐる供宴とも言える戦国の世を渡っていく物語だ。

群像劇ではあるが、物語の中心軸に近いところで描かれる人物は、秀吉と元甲賀忍者で上方落語の祖とも言われる新左衛門、そして茂助だ。新左衛門は、秀吉に御伽衆として仕え、上方落語の祖とも伝えられた人物で、現在も大阪市内に屋敷跡、堺市内には墓がある。劇中では新左衛門が噺(はなし)や芸を披露する場面も何度か描かれる。日々、一瞬の判断や運で生死が左右される厳しい戦国の世を、新左衛門が笑いと芸で渡り歩くところに、北野監督のもう1つの顔である、お笑い芸人ビートたけしとしての、笑いや芸へのリスペクトが垣間見える。小説版では、新左衛門がプロローグで秀吉に「首」の噺を披露する…。つまり、ストーリーテラーになる形で、物語の口火が切られる。