国内の映画は、大規模商業映画と、作家性が強いアート系の作品が中心のインディーズ映画と、二極化されている。前者が全国のシネコンで上映されている一方、後者はミニシアターと呼ばれる単館系の映画館を中心に上映されている。そうした作品は、東京で封切り後、全国で順次上映というケースが多く、地方では公開時期が首都圏での封切りから大幅に遅れるか、そもそも上映されないケースも少なくない。そうした状況の中、新映画レーベルが立ち上げられると聞き、4日に都内で行われた会見を取材した。
「New Counter Films」(ニューカウンターフィルムズ=NCF)は、作品性・作家性を重視した良質な邦画を、国内外に発表することを目的としている。世界三大映画祭の1つ、ベルリン映画祭(ドイツ)ベルリナーレ・スペシャル部門に正式招待された、永瀬正敏(57)の主演映画「箱男」(石井岳龍監督、今年公開)を手がけ、配給業務も行う制作プロダクションのコギトワークスの関友彦代表取締役と、同社の鈴木徳至プロデューサーの2人が、NCFの代表を務める。
「誰もが観たい映画ではなく、誰かが観たい映画をつくる」をミッションに映画を製作し、コギトワークスが独自の配給網を駆使して国内の単館系のミニシアターと海外17都市のアートハウス劇場に配給を行い、世界同時期に公開する。鈴木氏は「作り手として、自分たちが見たいものを、どうやって作り続けていくのか、というところを考えていくことで、業界にとっても未来につながっていくのではないか。そこに強くこだわりを持ちたい」と方向性を語った。
映画館での公開に加え、動画配信サービス大手U-NEXTの協力を受け、都度課金(TVOD)制の同時配信を行い、物理的な理由で映画館に足を運べない観客にも作品を提供する。関氏は「地方に住んでいる方とお話ししていると『東京の劇場で公開しているニュースは見るけれど、自分が見ることができるのは半年、1年後。盛り上がっている時に見られないことが悔しい』という声がある」と、首都圏と地方の間に映画観賞において格差があると指摘し。加えて「家族との時間を過ごしたり、仕事で映画館に行くのは難しいけれど、やっぱり映画が見たいという方にとっては、同時間で映画を楽しんで見たと共有できるのは、劇場と配信が共生できることだと思う」と、劇場公開と同タイミングで配信を行う意義を強調した。
一方で、映画館の公開と同時に配信を行うことに難色を示す向きが、映画業界の中にないわけではない。日本映画製作者連盟(映連)は規定で「最初に映画館のみで公開されたものを映画として認める」としており、そこから外れると非映画デジタルコンテンツ(ODS)扱いになる。つまり、映画として認められなくなり、国内の映画賞の中には選考対象から漏れるものも出てくるため、映画として評価される機会を失うケースも出てくる。
記者が、その点について聞くと、関氏は「そうですね。なかなか突っ込まれた感じはしましたけど。あまり考えてはいなかったですけど、言われたら、そう思います」と苦笑した。そして「もし、同時期に配信を行うと非映画であると現状、定められているならば、ルールを変えませんか? と。何だから映画である、映画でないという論調は、もしかしたら今だと、それに当てはまらない作品も増えてくる」と答えた。
鈴木氏は「僕なんか、ずっと自主映画からやっているので、そもそも映画だと思われていないところがある。やはり、動員が1万人いかないような小さい映画って、映画業界では映画だと思われてないという感覚が、ずっとある」と、映画業界が二強化していることを改めて強調。「インディーズがメジャーの下だと思われがちですけど、僕は先端だと思っているからこそ(インディーズに)ずっと軸足を置いていて。ここ10年、世界で評価される監督が、どこから出てきましたか? 僕らがいたところ(インディーズ映画)から出てきていると思っている。そこは、すごく自信がある」と胸を張った。
第1弾作品として、坂東龍汰(25)高橋里恩(26)清水尚弥(28)3人の主演映画「若武者」を、5月25日に世界同時期に公開する。同作は、光石研(62)が映画に12年ぶりに主演した23年「逃げきれた夢」が世界3大映画祭の1つ、カンヌ映画祭と並行開催されたACID部門に出品された、二ノ宮隆太郎監督(37)の最新作。渉(坂東)英治(高橋)光則(清水)の幼なじみ3人が“世直し”と称して街の人間のささいな違反や差別に対して無軌道に牙をむき、次第に暴力に変化していく物語。
関氏は「若武者」を紹介しつつ、NCFで映画を製作する際、製作費の上限(キャップ)を2500万円に設定すると説明した。ミニシアターでの興行の一定の線引きとして動員を1万人程度と見込み、そこに配信とブルーレイ、DVDといった2次利用を加え、収益の分岐点として見込んだ。また、製作費(総事業費)2500万円をリクープ(回収)後の全体収益=成功報酬に関して、鈴木氏は、半分を監督やキャスト、スタッフに還元していくと説明。成功報酬の契約書をメインスタッフとキャストで結ぶことも打ち出した。
そのことに対して、他の記者から「成功報酬分配は素晴らしい仕組みだと思いますけども、現実の日本映画はリクープできない作品の方が圧倒的に多い。2500万円を、どうやってリクープしていくのか」との質問が出た。関氏は「正確には(動員)1万3000人で回収できる計算に今はしております。今、国内の公開館数で現状(公開の)日付が決まっているのは17館なんですが、交渉中のところも含めて全部で約50館ぐらいで公開すれば、きっと1万3000人にいくんじゃないかな」と口にした。その上で、あくまで「希望的観測」とした。一方で「もちろん成功報酬詐欺にならないように絶対に毎回、回収をして還元できるようにはしたいと思ってるんですけど、そこに保障みたいな戦略というか、計画があるわけではないのは確か」と続けた。
二ノ宮監督は「自分と一緒に新しい映画を作る思い…自由にさせていただくところもあったし、脚本作りから撮影まで一丸となって、やりやすい環境を作っていただいた。」と、NCFの製作体制を歓迎した。一方で、質疑応答で幾つか指摘がなされたように、今後の見通しなど、まだまだ未知数な部分はある。それでも、鈴木氏が「たとえ、僕らがやっていることが映画だと思われなかろうが、僕らは映画だと思ってるので。それが映画だと言い切るしかない。一辺倒な日本の映画作りに、一石を投じたい」と口にするように、腹を決めて新たな試みに挑む心意気は買いたい。今後も、NCFの動向は注視していきたい。【村上幸将】



