シンガー・ソングライター長渕剛(57)の妻で、かつてアクション女優志穂美悦子として活動したフラワーアーティストの長渕悦子さん(58)が25日、薬師寺(奈良市)の「東院堂」を歴史上初めて花で装飾した。約5000本の花と流木で、国宝・聖観世音菩薩(ぼさつ)が祭られる堂内を彩った。この日、同寺で始まった春の行事「花会式」のイベントの1つで、装飾は31日まで展示される。

 普段は質素な趣の東院堂の仏像が、鮮やかな花々に囲まれた。「花会式」のイベントとして東院堂のアレンジメントを依頼された長渕さんは、1日半の時間を費やし、約900年の歴史を持つ堂内を、史上初めて花で彩った。

 「一生のうちでもこんな機会はめったにない。夢とさえ思っていませんでした。ご縁から頂いた大きな舞台。情熱では負けないぞという思いでした」

 国宝・聖観世音菩薩の周りを「一番高貴な色」という紫の花で敷き詰めた。両脇に立つ四天王像には、それぞれの顔の色に合わせて赤、白、黒、青の花と流木を使い、荒々しい木の力強さと花の持つ優しさを混ぜ合わせる演出を選んだ。

 友人の家族が薬師寺とつながりがあったことから、昨年6月に依頼を受け、この日のために準備を進めてきた。「薬師寺のことが頭の中から離れることは1日もありませんでした」。今年2月には雪の積もる神奈川県の津久井湖を訪れ、何万本と浮かぶ中から、展示に見合った流木を探し続けた。

 用意した花は約5000本。長渕からの「中途半端なことをするなら、花がない普段のままの方がいい。やるからには大々的にやれ!」というアドバイスを受け入れ、“大役”と真剣に向き合い続けた。29、30日には金堂に生花を奉納するパフォーマンスも行う予定だ。

 87年に31歳で結婚し、3人の子供を出産。子育てに専念してきた。そして、子育てが一段落した4年前に「自宅を花で飾れたら」という思いで始めたフラワーアレンジメントにのめり込み、花で彩るアーティストとしての仕事に目覚めた。

 「きれいな花をどう組み合わせるか、想像を膨らませて創作する。女優時代にはなかったこと。ものを創りあげるのは楽しいし、花が持っているエネルギーを感じられるんです」

 花を切って寿命を縮めてしまう分、花を見た人を喜ばせ、花にとってよかったなと思ってもらえるように飾ることがモットー。日々の創作の喜びが、新たなアーティスト人生の原動力となっている。【福岡吉央】

 ◆長渕悦子(ながぶち・えつこ)1955年(昭30)10月29日、岡山県生まれ。72年に千葉真一が主宰するジャパンアクションクラブに合格し、アクション女優の道に。87年に長渕と結婚し、2男1女の母として子育てに専念。10年にフラワーアレンジメントを始め、現在は結婚式や夫のコンサート会場での花の装飾を手掛けるほか、フラワーアレンジメントをまとめた写真集も発売している。

 ◆薬師寺

 奈良市にあり、奈良七大寺の1つとされる法相宗の大本山。680年、天武天皇によって藤原京に建てられ、平城遷都後の8世紀初めに現在の西ノ京に移転した。古都奈良の文化財の一部として、ユネスコ世界遺産として登録されている。本尊の薬師三尊像をはじめ聖観世音菩薩像、神功皇后像、僧形八幡神像、仲津姫命像は国宝として指定されている。