日本のストリップショーは今年で誕生70周年を迎えた。最盛期は全国で300軒以上あったストリップ劇場も今では20軒を切るまでに減少。絶滅の危機と言われる一方で、その芸術性に注目した女性客が急増するなど新たな動きも見られる。7回にわたって、ステージで観客を魅了し続ける個性的なストリッパーたちに話を聞くことで、“ストリップの今”に迫ってみたい。

●日本のストリップ誕生70年

 長い手足にスレンダーで柔らかい身体を活かした艶やかなポーズが次々に決まる。

 それでいて、矢沢ようこのステージは他の踊り子に比べて、あまり動かずに止まっている時間が長く、何かの化身のような集中した表情と身体全体から滲み出る情感で観客の心を引き寄せ、場内の空気を操ってみせる。

 彼女のステージを見ていて思わず涙が出たという話を何人かの女性の観客から聞いた。

 そうかと思えば、激しく大きく動きだし、とびきりの笑顔を浮かべてみたり。そうした静と動の切り替え方や強弱のメリハリをつける間(ま)の取り方は、日本の古典芸能である「能」に通じるものがあるように思う。

 自身のステージについて矢沢はこう語る。

 「自分では、そんなに止まっている覚えはないんです。きっと、何かが入り込んでいるんだと思います(笑)。ストリップって、見せるのは裸ですけど、見えているのは中身というか、魂みたいなものだと思うんです。それを感じられる方たちが涙を流して下さったり、ストリップを好きでいて下さるんじゃないでしょうか」

 短大時代の1996年にスカウトされてAVデビュー。姉も前年に藤森加奈子という芸名でAVデビューしていたが、姉の紹介ではなく、偶然、姉と同じ事務所の同じスカウトマンに声をかけられたとか。

 「お姉ちゃんは原宿、私は代々木でスカウトされて。最初から『AVに出てみない?』っていうお話でした。事務所に行って名前を書いたら苗字が一緒ということで『あれ? もしかしたら…』という話になって。お姉ちゃんがAVに出ているのは直接聞いてはいませんでしたが、友達と一緒に行ったコンビニで見た雑誌に載っていたので知ってました。AVというものがどういうものか分からなかったし、タレントに憧れていたので、興味が先に立って、出てみることにしたんです」

 その後、伝説のお色気バラエティー番組「ギルガメッシュないと」にレギュラー出演。同番組の企画「矢沢ようこ・浅草ロック座デビューへの道」で、97年12月にストリップ・デビューを果たした。

 「その頃は引っ込み思案な性格が直ってなくて、テレビに出ていても全然前に出ていけなかったので、それを見かねたプロデューサーの方が考えて下さったんだと思います。これは私を成長させてくれる、いいキッカケなんだろうなと。ストリップはそれまで見たことも聞いたこともありませんでした」 テレビでの宣伝効果もあって、デビュー公演は大盛況に。その後も、矢沢は年に3、4回のペースで浅草ロック座に出演。徐々に系列劇場への出演も増え、AV引退(2002年)以降はストリップが仕事の中心となっている。

 「自分の好きな先輩の踊り子さんのステージを見させてもらって、『ああしたら綺麗だな…』と思ったポーズや動きで自分なりに出来るものを取り入れてみたりもしました。それもあってか、ストリップに出てからは、雑誌の撮影のポーズのバリエーションが凄く増えましたね。何かセクシーな撮られ方とか表情とか。だから昔の自分が出ている雑誌を見ると、ストリップにデビューする前か後か、すぐ分かるんですよ」

 矢沢はデビュー6年目にストリップを休業し、6年間をアパレル系のOLなどをして過ごした。2009年にロック座マカオ(現在は閉館)への出演を機にストリップ界に復帰している。

 「走り続け過ぎたんですかね。身体がちょっと辛かったというのもあったし、精神的にも『矢沢ようこは、こうじゃなきゃいけないんだ』みたいに自分で自分を縛っていた気がします。それで、一回、立ち止まってみようかなと思って、お休みをいただきました。辞めるつもりはなかったです。何度か復帰のお話をいただいていたんですけど、その度に『そういう気持ちになるまで、もう少し待って下さい』と、お断りしていて。そのうちに、もう戻ってこないと劇場の方も思ったみたいで、だんだん連絡が来なくなりました。ロック座マカオが出来て、何年かぶりに『出ないの~?』っていう電話をいただいて、あれがなかったら今はないですね」

 休業前と復帰後のステージでは、矢沢の中で何か変化はあったのだろうか。

 「何か自由になった気がします。ステージが毎回ちょっと違ってみたり、お客さんとジャレてみたり、そういうのは前はなかったです。無心の状態で曲を聴いて、そのイメージを身体で表現することが大事なんだと最近になって気がつきました。前は形にこだわっていましたから」

 近年の彼女は女優業にも進出し、2015年に公開された映画「劇場版 浮気なストリッパー」(監督・横山雄二)に派遣切りされたストリッパーの卵の役で主演した他、来春公開予定の映画「彼女は夢で踊る」(監督・時田英之)にも出演している。

 ストリップでは、8月11~20日が広島第一劇場、8月21~31日は横浜ロック座に出演する。

 「ストリップもやり続けられたらいいなと思っていますし、他の仕事もいろいろやってみたいし、今までのことも大事にしつつ、まだまだ成長しないといけませんね」

(おわり)

 ◆西条昇(さいじょう・のぼる)1964年、東京生まれ。江戸川大准教授。専門はジャニーズ、お笑い、ストリップなどを中心とした「舞台芸術」と「大衆芸能史」。新聞・雑誌へのコメントと執筆、テレビ出演も多数。著書に「ニッポンの爆笑王100」など。今年3月には浅草・東洋館でストリップ誕生70周年イベントの企画・構成・司会を担当した。http://saijo-noboru.blog.so-net.ne.jp/