将棋の藤井聡太七段(17)が28日、初タイトル獲得へ王手をかけた。東京・千駄ケ谷「将棋会館」で行われた第91期ヒューリック杯棋聖戦5番勝負第2局で、渡辺明棋聖(36)を下し、2連勝とした。

開幕局を制した後の宣言通り、和服姿で登場。緊張することなく指し回して、タイトルホルダーをかど番へと押しやった。17歳11カ月21日での史上最年少初戴冠を目指す第3局は7月9日、東京都千代田区「都市センターホテル」で行われる。

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「東海にタイトルを」。青雲の志に燃える藤井の和服初勝利は、史上最年少でのタイトル奪取に王手をかける大きな1勝となった。第1局後の会見で話したとおり、黒の羽織、濃紺の着物、グレーの仙台平のはかま姿で下座に着く。師匠の杉本昌隆八段(51)に贈られたもので、着付けは都内の呉服店のスタッフに手伝ってもらったという。タイトル戦登場35回、獲得計25期を誇る渡辺にも見劣りのしない所作を見せ、鮮やかな指し回しでの連勝劇だった。

棋聖戦挑戦権を得た翌日の今月5日、師匠との電話で「1局目はスーツにしたい」と申し出た。開幕戦の第1局は8日に迫り、時間がないためだった。

公式戦では1度、和服姿を披露。やはり、師匠にプレゼントされた。昨年8月11日、「将棋日本シリーズJTプロ公式戦」の1回戦で、三浦弘行九段(46)に敗れた。お預けになった和服での白星は、大きな舞台で獲得した。

プロとして公の場での和装デビューは、昨年4月。平成の将棋界を振り返る公開イベントでだった。同席した男性棋士は、21歳2カ月の史上最年少名人になった谷川浩司九段(58)、タイトル計99期の羽生善治九段(49)に、佐藤康光九段(50)森内俊之九段(49)渡辺棋聖と、全員が名人か竜王の獲得経験者。合計タイトルは176期になる。

そこに当時、タイトル戦に登場すらしていない藤井が「新時代の名人候補」という期待含みで招かれた。この時は書生のようなイメージだったが、「(和服の)着心地は良かった。次は大きな舞台で着てみたい」と思いをはせていた。

今月はこれで9局目。竜王戦3組決勝では師匠との「師弟対決」を制して、史上初の4期連続優勝を果たした。前期のC級1組から今期B級2組に昇級した順位戦1回戦でも、3年前に30連勝目を阻まれた佐々木勇気七段(25)を下した。王位戦での木村一基王位(47)への挑戦権も獲得している。過密日程にも「しっかり睡眠を取って、体調を整える」と抜かりない。

将棋界のタイトル保持者で3年前から替わっていないのは、渡辺の持つ棋王だけ。藤井が挑戦する棋聖も王位も、毎年王者が交代している。史上最年少でのタイトル制覇まで、あと1勝だ。【赤塚辰浩】

◆棋聖戦 1962年(昭37)創設。初代棋聖は、故大山康晴十五世名人。94年度まで半年に1回開催。95年度から年に1回に。96年度には、当時のタイトル全7冠を保持していた羽生善治が三浦弘行に敗れ、6冠に後退した。タイトル名の「棋聖」は、将棋や囲碁で抜群の才能を示す者への尊称。特に将棋では、江戸時代末期に出現した不世出の天才棋士、天野宗歩を指すことが多い。

【棋聖戦5番勝負第1局・対局VTR】

◇6月8日◇東京・千駄ケ谷「将棋会館」 先手の藤井が渡辺の得意とする矢倉に誘導。双方1分将棋の終盤、16手連続の王手をしのいだ藤井が午後7時44分、157手で勝ち、17歳10カ月20日の史上最年少挑戦記録達成を白星で飾った。