歴史的な一戦の裏側に迫る「G1ヒストリア」は、14年の安田記念を制したジャスタウェイにフォーカスした。

同年3月のドバイデューティフリー(現ドバイターフ)を制し、130ポンドで当時の世界ランク単独1位となった凱旋(がいせん)レース。主戦の福永祐一騎手(46=現調教師)が騎乗停止となり、急きょ代打騎乗となった柴田善臣騎手(56)が当時を振り返る。

14年、安田記念を制した柴田善騎手は鞍上で誇らしげにジャスタウェイを指さす
14年、安田記念を制した柴田善騎手は鞍上で誇らしげにジャスタウェイを指さす

4万人超のファンが世界一の走りを見届けた。降雨の中で行われた9年前の安田記念。もちろん主役は当時日本馬初の世界ランク単独1位だったジャスタウェイ。ドバイデューティフリーを6馬身1/4差で圧勝し、世界にその名をとどろかせていた馬の凱旋レースだった。しかし一頓挫があった。主戦の福永騎手が騎乗停止となったため鞍上が空白に。世界一の馬の背中を託されたのが大ベテラン柴田善騎手だった。「その前に2回毎日王冠で乗っていたからね。先生(須貝師)には何も言われなかったよ」と振り返る。騎手と調教師はJRA競馬学校1期生の同期。細かい注文は一切なかった。

不良馬場の中、直線は敗戦がよぎる位置だった。グランプリボスが抜け出し、ジャスタウェイは中団。しかしパートナーに全幅の信頼を置く鞍上は落ち着いて馬群をさばいた。「乗っていて大きな安定感があった。完成の域に達していて、返し馬で心配はなくなった。気持ちの強い馬だった。馬場にも負けずに走ってくれた。そしたら最後にグランプリボスがよれたんだよね。そこを捉えた」。鼻差決着の激戦でも勝つ自信があった。

第64回安田記念
第64回安田記念

多くのファンが強さを実感した。大逆転劇を目の当たりにし、スタンドからは降雨が気にならなくなるほど名馬と名手をたたえる歓声がこだました。「ファンの方々も天気に関係なく応援してくれてね。1人1人の声が聞こえた。無事に責任を果たせて良かったよ。引き揚げる時には先生とも『ありがとう』と。お互いにほっとしたんだと思う」。

大役を成し遂げた鞍上は、改めてジャスタウェイの強さを語る。「これまでヤマニンゼファーやタイキフォーチュンで東京マイルG1を取らせてもらったけど全然違う。マイルはおそらく適距離ではない。でも頑張ってくれた。オールマイティーだね」。その後は福永騎手の手綱に戻り、凱旋門賞(8着)、ジャパンC(2着)、有馬記念(4着)と日欧のG1を渡り歩いた。くしくも現役最後の勝利が安田記念となった。人馬が最善を尽くした末に14年の名勝負があった。【舟元祐二】

14年、グランプリボス(左)を鼻差でかわし安田記念を制したジャスタウェイ(中央)
14年、グランプリボス(左)を鼻差でかわし安田記念を制したジャスタウェイ(中央)

◆ジャスタウェイ 2009年3月8日、北海道の社台コーポレーション白老ファーム生産。父ハーツクライ、母シビル(母の父ワイルドアゲイン)。鹿毛、牡。馬主は大和屋暁。栗東・須貝尚介厩舎から11年7月デビュー。重賞5勝。G1は13年天皇賞・秋、14年のドバイデューティフリーと安田記念の3勝。通算22戦6勝(うち海外2戦1勝)。種牡馬として20年ホープフルSを勝ったダノンザキッド、21年JBCレディスCを制したテオレーマなどを輩出している。