3月は競馬界にとって別れの季節。今週末の開催を最後に、東西合わせて8人の調教師が定年などにより引退を迎える。多くの名馬を育てた栗東の音無秀孝調教師(70)は3月2日日曜の東西G2、チューリップ賞(芝1600メートル、阪神、1~3着馬に桜花賞優先出走権)のサウンドサンライズ、中山記念(芝1800メートル、1着馬に大阪杯優先出走権)のカラテ(牡9)を含む11頭の大攻勢。JRA通算1000勝達成の可能性も残しており、大注目のラストウイークだ。
◇ ◇ ◇
春を思わせる日差しの下、音無師は穏やかな笑顔を見せていた。「(心境は)いつもと同じだよ」。
足かけ31年の調教師生活で積み上げたJRA勝利数は996勝。1000勝まであと4勝に迫っているが「気にしていない。達成できなくてもいいと思っている」と達観する。地方、海外を含めた勝利数は1020を超えており、そこにはジャパンダートダービー3勝などそうそうたるレースが含まれる。「重賞を多く勝てた。それは誇りに思っている」と胸を張る。
騎手としてはノアノハコブネで85年オークスを勝つなど競馬界に大きな足跡を残した。だが、「騎手としても調教師としても、しんどいことが多かった」。騎手引退前の数年間は騎乗馬に恵まれず、調教師としても開業初年度は1勝のみ。そこから巻き返した。今は競馬人生を「おもしろかった」と振り返る。
ラストウイークは11頭で攻勢をかける。重賞にも2頭が参戦。チューリップ賞のサウンドサンライズは「桜花賞に出走させたい」、中山記念のカラテも「この馬で重賞を3勝した菅原明騎手に乗ってもらうので」と期待する。奇跡的なJRA1000勝達成の可能性もある。【岡本光男】
◆音無師のJRA重賞勝利 27日現在で通算90勝。G1・14勝。初勝利は開業した95年の北九州記念(イナズマタカオー)。GI初勝利は06年高松宮記念(オレハマッテルゼ)。直近は1月26日のプロキオンS(サンデーファンデー)。
■53歳で勇退村山明師 感謝の言葉
今週末の競馬を最後に、53歳で勇退する村山師はあらためて感謝を口にした。G1・11勝(Jpn1含む)のダート王コパノリッキーを筆頭にJRA通算307勝を挙げた。「もう終わりですけど、いい経験をさせてもらいました。今までありがとうございました」。最終週は9頭が出走予定だ。
■宗像義忠師 いつも通り
宗像義忠師は土日14頭の大攻勢をかける。JRA通算671勝を挙げ、22年高松宮記念ではナランフレグが待望のG1初制覇を届けてくれた。中山で出走する8頭のうち、6頭は同馬の主戦を務めた弟子の丸田騎手を起用。最後まで“わが子”を思うトレーナーだ。宗像師は「最終だけど、変わらないですね。いつも通りです。みんな頑張ってほしいですし、無事に引き継ぎたい」と話した。
■鮫島一歩師 復帰戦期待
土日で13頭を送り出す鮫島一歩師は、中山記念のリフレーミングで有終の美を狙う。昨年8月の小倉記念をレコードで制した後に右前脚を傷め、半年ぶりの復帰戦となる。「在厩で4カ月かけて調教して乗り込めた。なんとか力を発揮してくれれば。最後だからというわけでもないけど頑張ってほしいね」と期待する。
■河内洋師 荷物が大変
騎手デビューから数えて51年にわたる競馬人生のラスト週となる河内洋師は土日で11頭を送り出す。「その時が過ぎてみないと分からないね。今は引っ越しの荷物整理の方が大変」と笑顔を見せる。大トリのチューリップ賞ウォーターガーベラは武豊騎手が鞍上。「最後だし(乗れるように)空けてくれたのかな。どんな競馬をしてくれるか楽しみ」と弟弟子の手腕に期待する。
■木原一良師 柔らか笑顔
木原一良師は「実感がわかないんだよね」といつも通りの柔らかな笑顔で語る。穏やかな人柄で、多くの関係者にとって癒やしの存在だった。自身2頭目の重賞勝ち馬だったマルモセーラ(10年ファンタジーS)の子で1日3勝の快挙を成し遂げたこともあった。最後の出走馬となる日曜阪神4Rヤマニンチェルキは「昇級戦の前走も2着で、3着馬は離した。競馬なんで分からないけど、期待は大きい」と力が入る。
■藤沢則雄師 寂しさ増す
いつも通り調教スタンドで愛馬の動きを見守った藤沢則雄師は「2、3週間前はそうでもなかったのに、だんだんさびしくなってきてね」としみじみ語った。06年宝塚記念でディープインパクトの2着に好走したナリタセンチュリーなど記憶に残る馬を作り上げた。今週は9頭が出走。期待は土曜阪神2Rのリードプリンシパルだ。現在5戦連続で上がり最速をマーク。「なんとかもうひと押しを」と初勝利を願う。
■石毛善彦師 勝負に集中
石毛善彦師は最終週の出馬投票も自ら行った。開業当初から続ける木曜午後の大事な作業。石毛師は「これも仕事ですからね」と普段通りを貫く。今週はオーシャンSクムシラコなど、土日で6頭を送り出す。日曜中山7R終了後には競馬場で花束が贈呈される予定だ。「まだ全然実感がないね。来週になって馬が放牧に出たり、転厩したりしたら『ああ、終わったなあ』ってなるのかな」と勝負に集中する。

