決して回り道ではなかった。10月に阪神から戦力外通告を受けた奥山皓太(24)は今、第2の人生へ向け準備を進めている。

「今振り返ってみると、プロ生活の2年間はあっという間だったと思います。短い期間だったんですけど、なかなかできる経験じゃないと思うんで、このことを伝えていったり、この経験をもとにして新しいことにチャレンジしていきたいと思います」

静岡大初のプロ野球選手は、阪神では初の国公立大出身選手だった。2年前、19年ドラフトは下宿先で野球部の仲間と見ていた。プロ志望で就職活動を行っていなかった一方、「いち視聴者として見ていた」と、どこか人ごとのように画面を見つめていた。指名を受けると大急ぎでスーツに着替え、大学へ直行したことを覚えている。

「国立でもプロに行けたっていうのは、可能性を示せたっていう点では大きかったのかもしれない。あとはそこで活躍する姿を見せることができなかったので、自分としては心残りというか、悔しい部分はあります」

阪神での2年間は濃密で、残酷だった。1年目の昨季、右膝に違和感を感じた。高知・安芸での春季キャンプの真っ最中。ふと、力が入らなくなる瞬間があった。診断の結果、右膝半月板に異常が見つかり、そこから約5カ月別メニュー調整。脚力と肩の強さが自慢の外野手にとっては、痛すぎる船出だった。

「入団して、どんどんアピールしていかないといけない時に動けなくなってしまった。そこで精神的にはキツかったのは覚えています」

焦りはもちろん募ったが、けがをしたからこそ、支えてくれる人への感謝も芽生えた。

「トレーナーさんはもちろん、平田監督、中村豊コーチ(来季から中日コーチ)もずっと気にかけてくださって。戦力外になって寮から離れる時には、おふたりとも『まだこれからの人生の方が長いから、めげずにこれから先も頑張っていってくれ』と言ってくださいました」

現在は山梨・甲府の実家で、次へのステップのため心と体を整えている。まだ進路は白紙。小中学校の教員免許を保持しており、「仮に教える立場として野球に携われるようになったら、プロで感じたことを伝えていけるようにしなくちゃいけないなと思います」と自覚もある。同級生は社会人2年目。大学院に進学していれば、まだ学生。奥山皓太24歳、人生ここからだ。【阪神担当=中野椋】