鳴尾浜球場は今季初のソフトバンク戦。ウイークデーだというのに、なぜか客足が止まらない。5年連続してウエスタンを制したチームの人気。と思いたいところだが、2軍戦に限って優勝と人気は別物。珍しい出来事なので取材してみると、故障していた阪神の助っ人キャンベルがこの日の試合に出場する報道があったという。超がつく熱狂的な虎ファンのこと、お客さんが応援に詰めかけても不思議ではない。自分で勝手に想像してみたが、スタメン発表で真相は判明。注目の人がゲームに出場していた。

 1番サード川崎--。そう、客足の流れはつい先日アメリカから帰国した“ムネリン”こと川崎宗則内野手(35)が目当てだ。復帰戦ではタマスタ筑後のスタンドを満杯にしたと聞いたが、いま気になるのは桧(ひのき)舞台にいつ立つかであり、5年間の本場でどんな野球を身につけてきたかである。一振りでバッティングがかなりパワフルになっていることがわかった。渡米する前とは比較にならない。ゲームで実証してくれた。3打席目である。高めのストレート。打った瞬間ホームランとわかる1発。2試合で3安打を放ったが、あと2本は中越えと右翼線への二塁打。まだ体調が万全ではないのか途中で交代したが、力強さを身につけて帰ってきた。川崎は「36歳、1軍へはいつ行くかはわかりませんが、いままで吸収してきたものすべてを出して野球を楽しめるように頑張ります」と実に頼もしい。戦力になることは間違いない。

 首脳陣の考えは……。水上監督に聞いてみた。「我々のところでは、もういけると思っているんですが、はっきりした日にちはまだ決まっていません。今後も体調など本人と話し合いながら決めていこうと思っています」であり、間もなく1軍からお呼びがかかりそうだ。試合前にはこんな光景を見た。外野でダッシュを何度も繰り返している。最近では日本の選手もよく走っているのを見るが、一昔前までは外国人の専売特許だった。1人黙々と走り、歩いて帰るときは、外野の芝生を指でつまんで投げ風向きの確認をしている。用意周到、まさにプロである。

 苦労してきた。レベルの高い野球の本場に殴り込みをかけた。未知の世界だ。苦労は覚悟の上だったとはいえ、本場の選手に負けまいと試行錯誤しながら必死に戦った。結果、パワフルな選手に生まれかわった。そんな川崎に「いま、桧舞台へ立つために一番やらないといけないこと」を尋ねてみた。すると「和食をたくさん食べることですね。美味しい日本料理をどんどん食べていくことが日本に馴染むことでしょうし、日本食に馴染むことは日本の野球に馴染むことに繋がると思いますので、和食をどんどん食べるように心掛けます」マリナーズ、ブルージェイズ、カブスと5年間、洋食をモリモリ食べてパワーをつけたということなのか、それとも5年間で身につけたアメリカンジョークなんだろうか、けむに巻かれてしまったが、本音は--。

 「36歳になりましたが、頑張りますよ。もちろん1軍で頑張るのが第1目標ですが、僕がいままで培ってきた野球を若い選手に伝えていきたいとも思っていますし、アメリカのスター選手の素晴らしいプレーをいっぱい見て、頭の中にたくさん詰め込んでいますので、そういった体験も若い選手に伝えたいですね。次の広島戦も頑張ります」

 プレーだけではない。気持ちの上でも立派なプロ野球選手に成長している。ファンサービスも積極的だ。鳴尾浜球場の入場門近辺には帰宿するソフトバンクの選手を一目見ようとファンが詰めかけている。そのお客さんを避けてバスに向かう選手が多い中、川崎は1人群衆の前を通る通用門から出て、ファンが差し出す色紙1枚1枚に丁寧にマジックペンを走らせていた。20人から30人。いやいや40~50人はいる。ゲーム後の疲れている中、現状を考えるなら、時差ボケを解消したり体調を整える方が大事なはずなのに、ファンあってのプロ野球界。フロントに在籍した経験もある小生、頭の下がる思いでした。プロ野球界にはこういう選手が必要ですね。頑張って欲しい。

【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)