「監督、監督!」。少し離れた場所からだったので広島の指揮官・佐々岡真司に対し、大声を出したのは2月のことだ。宜野座キャンプ、広島との練習試合が行われた。試合が終わって、広島担当記者の取材を受け、クルマに乗り込もうとする佐々岡を追い掛けた。

誰や? という顔でこちらを振り向いた佐々岡は言った。「もう~。監督、監督って言わんといてよ。まだ慣れんもんでね」。照れたような姿は現役時代から知るものと同じだった。

実直で心優しい名投手だった。監督として、その船出で借金生活に苦しんでいる。前監督・緒方孝市(現日刊スポーツ評論家)の下、18年まで3連覇を果たした広島だが昨季は4位。

5年間指揮を執った緒方は「勝ち続けるのがいかに難しいか」を知り、精根尽き果て、監督の座を降りた。その後を受けた佐々岡にも頑張ってほしいが現状はなかなか苦しい。ということは阪神にとって、これはチャンスということだ。

開幕12試合で2勝10敗、借金8と落ち込んだ阪神が復調したキッカケとして言われるのは今月3日、マツダスタジアムでの広島戦雨天中止だ。コロナ禍による変則日程で関東、名古屋で4カードを行い、移動日なしで広島に移った。相手投手は大瀬良大地のはずだったが雨で中止になった。

ビジター続きで練習時間が不足気味だった野手にとって打ち込みができ、ホッとする時間もできた。翌4日。スライド登板の大瀬良を打って勝った。結局、マツダスタジアムで2戦2勝。そこから流れが変わり、甲子園に戻って調子が上がってきた。この日も阪神が勝ち、3勝負けなし。まだ3試合とはいえ、阪神の無敗相手は広島だけだ。

広島は13年、元監督・野村謙二郎の下で3位になった。2位阪神とのクライマックスシリーズで広島ファンは甲子園を真っ赤に染めた。あの頃から阪神は広島に苦しんできた印象だ。

3連覇の緒方時代、阪神の前監督・金本知憲は古巣に煮え湯を飲まされ続けた。指揮官が矢野燿大に代わった昨季、広島戦に勝ち越し、流れを変えたのか。その意味でも今季の広島戦は阪神にとってカギになるかもしれない。

甲子園であと2つの広島戦。24日からはナゴヤドームに移動し、前カードで3連勝した中日戦だ。ようやく手にした貯金1。それを増やしていく日々にできるかどうか、だ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神対広島 快勝し選手を出迎える矢野監督(撮影・清水貴仁)
阪神対広島 快勝し選手を出迎える矢野監督(撮影・清水貴仁)