近本光司が好調だ。19日の楽天戦でも反撃の適時打を放つなど2打数1安打。阪神打線でもっとも安定している様子だ。そんな近本に新人時代からずっと熱い視線を送る男がいる。

坪井智哉。現在とは様子が違う“阪神暗黒時代”の主力だった。チームが低迷する中、黙々と安打を量産し、他球団のファンから見下されがちな往年の虎党は「坪井がおるで」と胸を張ったものだ。

坪井と近本には類似点がある。左投げ左打ちの外野手。ともに大学、社会人出身でデビューは遅かった。1年目から存在感を示し、3年連続100安打以上をマーク…。DeNAのベンチからずっと近本を見ていた坪井は「彼はいいね」といつも口にしていた。

その坪井の昔話だ。阪神入団以来、3年続けて打撃好調だったが4年目の01年、スランプに陥った。見かねた当時の監督・野村克也は監督室に呼び、こう話する。「おまえの、あの打ち方はちょっと無理があるのとちゃうか」。同学年のイチロー同様に「振り子打法」だった坪井。この会話の直後、プロ入り初めての2軍落ちを経験している-。

19日は彼の48回目の誕生日だった。みんなトシを取る。DeNAを退団した昨秋。阪神時代から仲の良かった新庄剛志が日本ハム監督に就任することが決まり、日本ハムでも同僚だった坪井の動向が水面下で取り沙汰された。

結局、日本ハムに戻ることはなかったが、この17日に独立リーグ「北海道フロンティアリーグ」の石狩レッドフェニックス初代監督に就任すると発表されたばかり。同じ北海道、新庄とは縁があるようだ。

ダブルの意味を込めて「おめでとさん」と連絡してみた。すると、やっぱり近本の話になった。阪神優勝のために欠かせない戦力という認識は同じ。だからこそ…と坪井は言う。

「投手もそうだけど特に野手は血眼になって研究されますからね。ルーキーのときから3割を打って当然と思っていて、去年、やっと打った。でも、これからやはり厳しいですよ」

坪井が不調になったのは徹底して内角を攻められたも要因だ。「上げた右足を狙って投げられてましたからね」。今となっては笑いながら言うが「いつまでも同じじゃない」というプロの厳しさがそれだ。坪井の陥った「4年目の危機」を突破できるか。そこに阪神の浮沈もかかっている。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

楽天対阪神 3回表阪神無死一、三塁、適時打を放った近本(右)(撮影・江口和貴)
楽天対阪神 3回表阪神無死一、三塁、適時打を放った近本(右)(撮影・江口和貴)