高橋遥人はもう30歳になっていたのか。「棋士の藤井聡太に似てるね」と声をかけると「言われます」と笑ったのはいつのことか。好投を見ながら、そんなことを思い出していた。故障の多い選手生活だ。「自分が持っているパワーを支える体の強さがないらしいんよ」。入団当時の監督だった金本知憲がそういう意味のことを言っていた。

阪神の今季初白星は遥人に尽きる。勝負させた指揮官・藤川球児もよかった。「勝負をしたな、という感じ」。勝利監督インタビューで言った言葉は実感だろう。いかにも投手出身監督ならではの采配ではないか。闘将・星野仙一も同じことをしたと思う。前監督・岡田彰布(オーナー付顧問)なら9回に代打だったかも。そんなことも思わせる完封劇だった。

印象深い試合の中で地味ながら「いいね」と思ったのは中川勇斗だ。自身初の開幕スタメンから、この日も「6番・左翼」で2試合連続でスタメンだった。だが安打はまだない。どんな選手でも最初の安打が出るまでは「今年、ヒットを打てるのだろうか」という不安が付きまとうと聞いたのはレジェンド掛布雅之からだった。

ましてや多くのライバルの中から抜てきされている中川である。「早く1本…」という気持ちは試合に出ている選手の中でもっとも強いのではないか。それでも、その誘惑に勝ったなと思わせたのは6回だった。

1-0で1死二塁。打ちたい。絶対打つ。そう思ってもおかしくないところだ。カウントは3-1になった。いよいよ打ちたい。しかし中川は5球目の変化球を見極め、四球を選んだのである。2試合目で初の出塁となった。ここで熊谷敬宥が代走に出て、出番は終了。次打者・伏見寅威が凡退したので得点につながらなかった。

それでもこういう様子は重要だ。中川自身は「ああいう打席を増やしていければいいですね」と言葉少なに振り返ったが、1軍の戦いに出る以上、必要だ。もっと言えばそういう見極めができなければ安打は出ないのだ。

「まだ開幕していない選手たちもいますから。ひとつひとつですね」。球児の言葉は例えば投げていない投手のことなどを指しているのかもしれないが打者ならやはり安打だろう。予想屋ではないが3試合目、中川がスタメンなら今季初安打が出ると思う。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)