準硬式から社会人野球の王子硬式野球部に挑戦する投手がいる。元明治大のエース高島泰都だ。高島は4年秋の全国大会で150キロを計測。1年からレギュラーとして活躍し、通算23勝8敗、防御率2.33の数字を残した。この春、2004年の都市対抗優勝含む15回出場の名門、王子に入部。2年後のプロ入りを目指す。

4年秋から硬式球で練習していた高島は、王子で順調なスタートを切っている
4年秋から硬式球で練習していた高島は、王子で順調なスタートを切っている

■小中学軟式→高校甲子園→準硬式「3日で人生が変わった」


軟式、硬式、準硬式。高島は3種類のボールを使って、夢への成長曲線を描いてきた。

「大学で準硬式を経験できたことは勉強になりました。同じ野球なのに、軟式とは違う、硬式とも違う。今までの経験をリセットし、準硬式の特性に合わせた思考を築いていきました。ボールの違いでイメージ通りにいかないことも多かったですが、そういう試行錯誤が面白いと感じられました。この感覚は準硬式をやっている選手なら、みんな感じていることだと思います」

1月に王子の野球部寮に入寮し、すでに練習試合で登板している高島。先日は146キロを計測し、秋から準備してきた「硬式球の移行」は順調にいっているそうだ。

「硬式球を握ってみて『あ、やっぱりこれが野球だな』と実感しました。社会人は打者のレベルも高いので、公式戦で抑えられるよう技術を高めていきたいです」。再び硬式の面白さを思い出し、新鮮な気持ちで打者に向かっている。

軟式野球との出会いは小1のときだ。「赤平レッドレイズ」に入部しエースを務め、赤平中学でも軟式野球部を選んだ。当時の日本ハム・ダルビッシュ有のようなクレバーで豪快なに投手になる夢を抱いていた。  

硬式野球は高校から。地元の市立高校・滝川西に入部。地元中学の有力選手が集まる代だったこともあり、高3夏に19年ぶりの甲子園出場を果たした。背番号は10。甲子園という目標は達成したが、大学で硬式野球を続けていく自信はなかった。そんなとき、チームメイトから「準硬式野球」というワードを聞き、自分で情報を集めだす。高校野球引退後、担任の先生から2日後に明治大学準硬式野球部のセレクションがあることを知らされ、慌てて受験。甲子園出場の実績と最速141キロの直球が評価され、後日合格の通知をもらった。「引退後3日で運命が変わりました」と笑う。

東京六大学で野球をしてみたい。ぼんやりしていた憧れを準硬式でなら果たせると思った。「明治に受かった時は『硬式と同じユニホームで野球ができる』という喜びのほうが大きかった。親も喜んでくれました」。大学2年でエース格となり、4年秋は関東選抜のエースとして3大全国大会のひとつ「第39回全日本大学9ブロック対抗準硬式野球大会」(11月・香川)で優勝。最速150キロを計測し有終の美を飾った。

昨秋の全日本大学9ブロック対抗戦では2試合9イニング無失点(被安打3)で優勝に貢献した
昨秋の全日本大学9ブロック対抗戦では2試合9イニング無失点(被安打3)で優勝に貢献した

■準硬式での「考える時間」が自分を成長させてくれた


準硬式は全国約280の大学チーム、約1万人が登録し、大学スポーツの中でも4番目に多い競技と言われている。ルールは硬式野球と同じだが、金属バットを使用し、中が硬式、外が軟式(ゴム)の「H球」と呼ばれるボールを使用する。準硬式野球部に入る前、高島は「硬式よりレベルは低いだろう」と想像し、すぐに活躍できると思っていた。しかしその過信はすぐに打ち砕かれた。「140キロの直球を投げても、金属バットで簡単に打たれる。正直言って準硬式をなめていました。そこから変化球を準硬式に合わせて研究し、投球術を立て直しました。スライダーは『切る』というより『押す』イメージ。ツーシームも覚えて投球の幅を広げました」。

学生主体の準硬式は技術コーチがほぼ不在で、自分で考えてうまくならなければいけない。「練習時間が短く、考える時間がいっぱいありました。この環境だったから自分は目標の150キロを出せて、野球を最後まで楽しめたのだと思います」と言い切る。

(写真左)関東選抜で共に戦った原晟也(彦根東出身)は最も信頼する同級生
(写真左)関東選抜で共に戦った原晟也(彦根東出身)は最も信頼する同級生

■「準硬式からプロ」の先輩、元広島・川口氏もエール


大学2年の秋ごろ、先輩や周囲の関係者から「上でやってみたら?」と言われるようになり、縁あって複数の社会人チームの練習に参加した。その1つが王子だった。王子と言えば、広島東洋カープでプレーした川口盛外氏(早稲田大準硬式出身、現王子本社勤務)の出身チーム。高島は「準硬式-社会人野球-プロ」の道を描きやすいチームだと感じ「社会人野球、その先のプロ入り」を本気で考えてみようと思った。明治大の河村光治監督は「最後のシーズンに150キロを出し、準硬式界では間違いなくトップクラスに成長した選手。硬式出身でもプロで活躍するのは難しい中、準硬式出身でプロ入りしたいという高い目標を持って努力できる選手」と高島の向上心を推す。

元広島の川口氏も「実際に投球を見たのですが、ストレートの強さがあって投げっぷりがいい投手。王子は上を目指すにはとてもいい環境。社会人野球は打者のレベルも数段上がるので、3~5ランク上の舞台に行く感覚だと思いますが、まずはチームに必要とされるピッチャーとなって都市対抗で優勝して欲しいですね」と期待する。

大学生活はコロナ禍で3年夏の選手権大会が中止になり、出場権をつかんでいた4年夏の選手権も、直前に陽性者が出て出場辞退を余儀なくされた。この経験が負けん気に火をつけ、モチベーションにつながったと語る。「コロナ禍で『今』できることに全力を注ぐことが大事だと学びました。1年目からどんどん投げて勝利に貢献し、都市対抗の舞台に立ちたい。155キロも目指します。僕の野球人生はここからが本番なので」。

13日に選手権出場権をかけた関東地区大学準硬式野球選手権大会が開幕した。高島のような選手が切磋琢磨する準硬式。その躍動にぜひ注目して欲しい。【樫本ゆき】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「いま、会いにゆきます」)

決勝で関西選抜の最後の打者を三振に仕留め、胴上げ投手に。自身初の日本一をつかんだ
決勝で関西選抜の最後の打者を三振に仕留め、胴上げ投手に。自身初の日本一をつかんだ