高校野球の熱気がいよいよ九州を包み始めた。佐賀大会が8日開幕し、所在地が福岡県に接し九州豪雨の被災地にも近い東明館が、初戦を突破した。10-0の6回コールドで鳥栖工を下した。被害の大きかった朝倉や久留米地域から通う生徒も多く、選手は勝利で元気や勇気を届けようと発奮。4月の練習試合で敗れた相手だったがリベンジした。

 気迫が白球に宿った。1回、相手三塁手の野選で1点を先制し、なおも2死満塁だった。打力を買われた東明館1年生の7番・寺崎拓真一塁手が2点中前打を放った。鳥栖工エース高田政樹投手(3年)には4月の練習試合で8回まで0点に封じられたが、いきなり主導権を握ってみせた。

 さらには猛打が止まらず4回から毎回得点。6回コールド勝ちでの初戦突破だ。古賀洋監督(56)も「ロースコアになると思っていた。こんなにうまくいってビックリ。正直ここまで打つとは思わなかった」と驚きを隠せない圧倒ぶり。「1本1本が見えない力となってつながったんでしょう」と、怒濤(どとう)の攻めを振り返った。

 投げては、木谷聖哉投手(2年)も踏ん張った。5回3安打無失点。度々得点圏に走者を置いたが「野球ができない人もいる。感謝しないといけない」と崩れなかった。野球をできない人…。高校は福岡県に隣接する佐賀・基山町にある。九州豪雨の被害の大きかった福岡の朝倉市や一時全世帯に避難指示が出された久留米市に近く、同校に通学する生徒や野球部員も多い。木谷の同級生にも豪雨の影響で学校に来られない人がいるという。ナインは試合前から「自分たちが勝って勇気を与えよう」と誓い合っていた。

 主将の木実健太郎捕手(3年)は「床上浸水した同級生もいます。勝ち進めば全校応援で来てくれると思う。甲子園に行くことで恩返ししたいです」と思いを代弁した。この日、開会式の選手宣誓で鹿島・深村晃紀主将(3年)は「全力プレーで勇気を与えられると信じています。感謝の気持ちで正々堂々と戦い抜くことを誓います」と、被災地への思いにも触れた。

 九州では福岡大会の開会式が中止となり、開幕も今日9日にずれた。被害のあった大分はこの日開幕を告げた。球児たちは野球ができる喜びをかみしめ、全力プレーを心に決めている。【菊川光一】