西武牧田和久投手(30)が強気の内角攻めで元同僚のオリックス中島を要所で断ち、チームに4年ぶりの開幕勝利をもたらした。エース岸の故障離脱で回ってきた開幕投手の大役に7回無失点。ルーキー時代に内角攻めを助言してくれた中島を初回のピンチで封じ、教えを大舞台での投球で体現した。下手投げ投手として86年の阪急山田久志以来、29年ぶりの開幕戦勝利の快挙を果たした。

 地をはうサブマリン投法から、一気に先輩の懐に切り込んだ。初回2死二塁。牧田が迎えたのは、かつての同僚で新人時代から世話になったオリックスの4番中島だ。カウント3-1から膝元へ食い込むようなシュートで鈍い音を響かせての遊ゴロに打ち取った。

 教えは胸に刻んできた。新人のころ、中島に「打者にとって、どういう投手が嫌ですか?」と聞いた。「いい投手ほど体をのけぞらせるような球を投げてくる。もてあそぶように投げられるのも嫌なもの」。変則の下手投げ投手だからではなく、プロの世界で生き抜くための流儀を授かった。

 中島が昨オフにメジャー挑戦を終え、オリックス入りが決まると内角攻めを報道陣に対して宣言した。その後、ゴルフをともにした時に「記事を見たぞ。遠慮なく来いよ! オレも米国で内角を打つ練習をガンガンしているから打ち返すで」と宣戦布告を受諾された。寒風吹くゴルフ場で静かに戦いが始まり、この日を迎えた。

 3打席目の6回は意表を突いたカーブを拾われて二塁打にされ、1死二、三塁と最大のピンチを迎えた。だが心躍っていた。「投げていく中で楽しくなっていった。ピンチでそう思えたのは初めて」。ブランコを内角高めの直球でバットを砕き、遊飛。T-岡田は正確な外角低めのシュートで一ゴロとし、切り抜けた。

 下手投げ投手として球界を見渡しても23年ぶりの開幕投手の大役。「開幕戦に下手投げ投手がいないというのも不思議ですね。やっぱり本格派が投げるイメージもありますが…」。球界の常識を理解する一方、わびしさが絡み合った。今回はエース岸の故障離脱で5日前に突如、決まったが、見事にサブマリン29年ぶりの勝利をつかんだ。「中島さんとは一緒に野球をして、すごい打者だと分かっている。でも敵となれば、どんどん攻めようと」。中島の教えが快挙へと導いた。【広重竜太郎】

 ◆下手投げの開幕投手 92年葛西稔(阪神=ヤクルト戦で敗戦投手)以来23年ぶり。勝利は86年山田久志(阪急)がロッテ戦で完投して以来29年ぶり。