効果絶大だ。阪神は1日、高知・安芸市での秋季キャンプをスタートさせた。全体練習後の特打では、来季3年目を迎える陽川尚将内野手(24)が金本知憲新監督(47)の目前で、センターのバックスクリーンを越える推定140メートル弾。「見栄えが全然変わっている」と喜ばせた。秋季練習中に指揮官から指導された成果を披露。虎が変わる秋、大砲候補が実を大きくする。

 金本監督フィーバーに沸いた初日、選手の主役は背番号55の大砲候補だった。ガッシャン。ガッシャン…。夕闇が迫った安芸の空に衝突音が響いた。全体練習後に組まれた個別のフリー打撃。江越、梅野らと並んだ2年目陽川が仰天の打球を連発した。次々とバックスクリーンにぶち当てると、ついに打球は126メートル後方、高さ10メートルある壁の上空を通過。推定140メートルの特大弾が飛び出した。

 実は数時間前に金本新監督から「魔法」を掛けられた。ランチタイム直後から始まったフリー打撃。練習を終えてケージから出ると、じっと見つめていた指揮官に呼び止められた。身ぶり手ぶりで教えられたのは、秋季練習から継続的に助言を受けている打撃の軸回転。軸を倒さずにいかに腰と平行でレベルスイングできるか。細かなポイントを指摘された。

 陽川 自分の中で今まで(軸が)だいぶズレていた。軸がズレると、ボールとバットの力の伝わり方が変わってくる。

 数字に表れた。全体練習では84振中柵越え10本だったが、疲労がたまっているはずの夕方の個別練習では242振中、柵越え41本とアーチの比率がアップ。しかも打つたびに飛距離が伸びる。この激変を誰よりも喜んだのは、もちろん指揮官だ。

 金本監督 甲子園の秋季練習と比べたら、見栄えが全然変わっている。皆さん、わかりますか? 腰の位置がしっかりしてきたのが。ズレながら、反動で打っていないから、ちゃんと回転で打っているから。

 今キャンプの強化指定選手であることは間違いない。金本監督はこれまでに「ひいきではないが、こいつと思った選手には肩入れして。全員平等というのは、野球界ではいいこととは思わない」と発言。待望とも言える生え抜きの大砲候補に、肩入れせずにはいられない。真っ暗闇の中、帰りの車に乗り込んだ24歳も期待に応えるつもりだ。

 陽川 キャンプなんで練習量が増えることは覚悟している。自分の中では、キャンプで何かをつかめればと思っている。

 今季は2月中旬に練習試合で、左肩を亜脱臼。1軍の舞台には立てなかった。期待されながらも殻を破れなかった男が、キャンプ初日からバットで存在感を発揮した。いきなりの金本効果。期待高まるキャンプがスタートした。【桝井聡】

 ◆陽川尚将(ようかわ・なおまさ)1991年(平3)7月17日、大阪市生まれ。金光大阪1年夏、3年春に甲子園出場。巨人からの育成3位指名を断り東農大へ。13年ドラフト3位で阪神入り。今季ウエスタン・リーグは故障で出遅れ54試合出場(3本塁打)のみ。1軍出場なし。180センチ、86キロ。右投げ右打ち。

<過去の安芸キャンプ飛ばし屋列伝>

 ◆フィルダー(89年春) 145メートル級の大アーチがバックスクリーンを越え、空き地に止まっていた車の屋根にドスン。所有者はファンで、球団が3万円の修理費を負担する騒ぎに。

 ◆ディアー(94年春) 左翼に160メートルの大飛球を放ち、場内は騒然。高さ7メートルのネットを10メートルとし、その後方に新しく高さ10メートル「ディアーネット」を設置。

 ◆大豊泰昭(98年春) 右翼場外のコンクリート通路に、160メートルの打球を運んだ。前年秋に設置された、高さ14メートルの「大豊ネット」を飛び越した。

 ◆金本知憲(04年春) 2月25日のランチ特打で10本の場外弾。うち5本がバックスクリーン越え。約1キロのマスコットバットでの豪快スイングだった。