また何人ものファンが涙していた。阪神鳥谷敬内野手(38)は今季初めて甲子園のお立ち台に上がると、「懐かしい感じがします」と照れ笑い。「名前がコールされる度にすごい声援を感じています。声援に後押しされていいヒットが打てました」と感謝した。

両チーム無得点の5回1死一、二塁、代打でバリオスから三遊間を破る決勝打を決めた。なおも1死一、二塁。今度は1番木浪の三遊間ゴロで二塁へ激走。自主トレ仲間でもある遊撃大和の好守からの送球と勝負し、リクエストの末セーフをもぎ取った。矢野監督は「打ったのもすごいけど、もしかしたらあの走塁の方がすごいんじゃないかと思う」と絶賛。この回2得点、勝利の立役者となった。

「この時期は人が辞めていく。寂しい」。秋。今年も別れの季節が来た。この日は脳腫瘍からの復帰を目指していた横田が24歳の若さで現役引退を表明した。16年には1軍の舞台で苦楽を共にした。横田が紛失したプロ初安打の記念球を一緒に捜索したこともあった。試合前、言葉を交わした。「また、いろんなことに挑戦していきます!」。前向きな言葉に救われた。

自身は球団からの“引退勧告”を受けて今季限りでの退団を表明。他球団で現役続行を目指す意思を固めている。「自分も挑戦していこう、というモノをもらった。それがいい結果につながったのかな」と後輩にも感謝。「特別な場所」甲子園で球団歴代4位の岡田彰布に並ぶ通算822打点、18年8月11日DeNA戦以来の勝利打点を記録し、高ぶる感情を体現した。

チームは4位中日とのゲーム差をなくし、3位広島に1・5ゲーム差まで迫った。逆転CSへ、シーズンは残り4試合。「打席に立った時の声援は励みになる。毎日、活力になっている」。虎の鳥谷を、まだ終わらせない。【佐井陽介】