プロ野球の監督にもスランプがあるという。巨人を率いて9年連続リーグ優勝、9年連続日本一を遂げた川上哲治さんは「現役時代は自分の力で解決できたが、監督になってからは、プレーするのは選手だから、もどかしくもあったし、選手とは違った苦しさがあった」と語った。

川上さんはマスコミの批判を無視し、目的を達成するために、チームの統制を徹底する。周囲から「巨人は管理社会だ」といわれても、川上さんは「プロ野球は高度の管理社会である」と信念を曲げなかった。名選手、名監督にあらず-。この言い伝えを覆した。

戦中戦後のスーパースターは現役時代に「ボールが止まって見える」と名言を残し、史上初の2000本安打を達成。“打撃の神様”の異名をとった。監督の座に就くと「管理野球」で前人未到のV9を達成した。

「球際」は1965年(昭40)の宮崎キャンプでひらめいた相撲からとった川上監督の造語。生前は「捕れない球でも飛びついて、グラブではたき落としてでも食い止める。土壇場まであきらめない粘り強いプレー、戦いだ」と語った。V9は川上イズムが浸透した結果だ。

「わたしは自分で最善とも思った手を、周囲の思惑や批判を恐れずに実行したつもりだった」

10月28日は川上さんの命日だった。享年93歳。元祖・神様は同じ熊本出身のヤクルト村上をどう見ているだろうか。もっとも日本シリーズを勝ち抜く難しさを知り尽くした男。故人の墓前には、鮮やかな花が秋風に揺れていた。【寺尾博和】