古巣西武に戻ってきた佐藤龍世内野手(25)は昨年末、ごう音の中にいた。

「無ですよ。無ですけど、黙ったら眠たくなっちゃうので。音楽を爆音でかけて、無理にテンション上げて、アホになってむいてます」

むいてます-。北海道・厚岸(あっけし)町。沖合で寒流と暖流が交差し、ラムサール条約登録の湿地からの栄養分も、湖に流入する。国内では珍しい、フルシーズンでかきが出荷される土地だ。佐藤龍の父は厚岸の漁師だ。「僕も離乳食くらいから、かき食べてます。あたったことないです」と笑う。

かきの殻むきは、中学生時代からの年末の恒例行事だ。

「何千個ですよ。ノルマ分、むくというか。しなきゃいけないというか、僕がしないと終わらないんですよ。僕と弟がむいて、お父がそれを詰めるみたいなのを一日中。袋1本に30~40個くらい入れるのを、150本くらい。2日間寝れないですもん。おととしは48時間、寝れませんでした。今回は風呂入りに帰って、1時間くらいは仮眠取れましたけど」

作業は暖かい場所でやるものの、睡魔との闘いは想像を絶する。ひと言で「野球よりしんどいですよ」とまとめる。外に出れば、氷点下も日常茶飯事だ。

昨年11月、交換トレードで西武に復帰した。地元北海道の日本ハムでプレーした1年半。日本ハムへの感謝を口にしつつ「ライオンズに戻るとファイターズ側から言われた時は、正直、うれしい気持ちが第一に来て。稼頭央さん(松井監督)はじめチームメートと一緒に野球できるという気持ちが第一に来て」と明かした。

厚岸から帰京し、この日は埼玉・飯能市内でのトークショーに参加した。ファンからは“外から見た西武”を問われた。「見ての通り仲良い球団だと思うんですけど、その中でも厳しさがあるのが違うかもしれないですね」。北の大地で引き締め直し、再び厳しい競争に身を投じる。

ファンには「やっぱり、サードですかね」と口にした。ベテラン中村らに加え、新外国人マキノンも三塁を守れるとの評判だが「ライオンズに戻ってきたからには、もう1回レギュラーを目指して、サードのポジションを。今年は開幕スタメン取って、シーズン終了まで守り抜いて」と、控えに甘んじるつもりはない。

無になって取り組んだ北国での48時間もまた、心を強くした。帰京し、埼玉で1時間ほどファンと触れ合って、さて次は。「今日、これから。終わってから沖縄に向かいます」。会場に詰めかけた獅子党を驚かせた。自主トレをともにするオリックス森らが、ひと足先に南国で待っている。「新体制になったので、厳しくやると思います、絶対。オフなしとは言われました」。ホットコーナー奪取へ、再び過酷な日々へ。沖縄の最高気温は1月にして20度を超える。【金子真仁】

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