西武渡部健人内野手(24)の打球は、2軍本拠地カーミニークフィールドの、高い左翼防球ネットの中腹あたりに何度か当たる。13日、イースタン・リーグ公式戦終了後の特打でのシーンだ。

日が暮れ始め、ふくよかな顔つきがオレンジに染まる。「少しずつ、打球が全方向に行くようになってきたかなと思います」と、表情に充実ぶりがうかがえる。

わたなべけんと、愛称ベッケン。公式発表では体重115キロ。中村、山川の系譜を継ぐ右の巨漢スラッガー候補として桐蔭横浜大からドラフト1位で入団し、今年でプロ3年目になる。

春季キャンプで最も期待を寄せられていた有望株の1人だ。実戦で4番に起用されることもあった。しかし。

「結果出さなきゃいけないっていうのもありましたし、長打力もあまり出せなかったので」

オープン戦半ば、2軍での再調整となり、そのままイースタン・リーグ公式戦の出場が続く。

15日現在の成績は、26試合に出場し、打率2割4分7厘、4本塁打。長打率は4割9分4厘だ。一時的に打率が2割5分を超えたこともある一方で、開幕当初は苦しんでいた。安打が出ない。4月上旬には8番一塁の試合も多く、9番スタメンの日もあった。

「なんか、ストライクに見える球、全部手を出しちゃって。それで三振も増えてしまいましたね」

先輩の助言もあり、しっかり取捨選択するように意識を修正。このところ状態が向上、どころか本塁打、三塁打、二塁打と長打を連発している。

期待も高まるし、渡部本人の自覚もある。ただ“今すぐ”にはまだ胸を張れないようだ。

「もうちょっと打たないと。打率も少しずつ上がってきてますけど、最低でも2割8分は打たないと」

1軍の厳しさは知っている。仲間の数字も雄弁だ。長谷川信哉内野手(20)は2軍打率3割2分4厘で、古市尊捕手(20)は同2割6分9厘でそれぞれ1軍に向かったが、同じ水準のものはまだ出せていない。

春季キャンプの半ば、あらためて自分に言い聞かせるように話していた。

「自分の売りは長打だと思います。コツコツ当てて出てっていうタイプでもないですし、走るタイプでもないので」

ホームランアーチストとは-。もっと突き詰めて、満を持す。【金子真仁】