西武佐藤龍世内野手(26)はいつものように、左膝を突くようにして三塁を守った。願っていた。

「頼むから勝ってくれ、と思ってました」

頼む-、に情感がこもった。3点リードの9回1死二、三塁。ロッテはポランコ、山口と中軸に回った。深めの守備位置から、何度かマウンドの高橋光成投手(26)のもとへ近づく。

「ゆっくりでいいよ。ゆっくり、ゆっくり」

完封目前、投げ急がぬよう。スタメンを外れると、9回に三塁の守備固めに入ることも多い。いつも投手に声を掛けている。いいタイミングで。

低く見て、強打者のゴロに備える。身体を張ってでも守らねば。7月9日のオリックス戦(京セラドーム)で三塁守備で2失策。チームも敗れた。2死で一塁走者を二塁で刺そうとして、悪送球になった。

「準備不足ですよ。黙って一塁に投げとけばいいのに…」

ミスの数日後、まるで自分に怒りをぶつけるように話した。もともと練習量は多い。より守備練習に力を入れた。一方、打で光りたい立場にある。スイングが減らないように、ナイターの日は昼すぎにやって来てマシン打撃をこなす。1人だけの時間帯もある。

好きな音楽を、割と大きな音量で流しながら打つ。「やっぱり、リズムですもん。バッティングも」。年末には故郷の厚岸に戻り、家業のカキむきを手伝うのが恒例行事だ。そこでも無になるため、眠らぬため、音楽を大きめに流す。そうやって自分の世界に入り、リズムをつかむ。

プロ初の3番打者を務めた。「やったろか! と思いました」。試合前、首脳陣からは特に何も言われなかった。「無言の圧。」と笑った。初回1死三塁、いきなりの見せ場。追い込まれて、右中間へはじき返した。プロ初の三塁打が、先制適時打に。「今までしんどい時もバット振り続けてきてよかったなと思います」。しみじみ話す。

大阪のマイナスを取り返したとは思っていない。

「いやぁ、まだまだ、もっともっと。チームに迷惑かけてきてるんで、しっかり監督、コーチに恩返しできるように」

でも勝ったのは純粋にうれしい。

「チームが勝てれば、僕はいいんで。サードが誰であろうと。それが自分だったら最高ですけど。自分が出てなくても勝てれば、監督の笑顔が見られれば全部、それでいいです」

だからこの夜は最高だった。ピンチを越えるたび、三塁で何度もガッツポーズした。最後も。完封が決まると、マウンドへゆっくりと駆けた。一塁マキノンとたたえ合う。バッテリーの抱擁が終わってから、ゆっくりエースと抱き合った。【金子真仁】