最後まで直球にこだわった。

現役引退を決めた広島一岡竜司投手(32)が1日の阪神とのシーズン最終戦の6回、マウンドに上がった。

対峙(たいじ)した阪神島田に投じた8球はすべて直球。初球は最速145キロを計測し、最後は144キロ外角高めで見逃し三振に切った。

11年に沖データコンピュータ教育学院からドラフト3位で巨人に入団した。専門学校からのプロ入りしたのは、球界の盟主とも言われた伝統ある球団。自分を見失いそうなときもあった。だが、立ち返ることができたのは「何が良くてプロに入ったのか分からなくならないように」と自信のある直球があったからだ。14年、青天のへきれきの広島移籍をきっかけに、磨いてきた直球で地位を築いていった。

移籍1年目から31試合に登板して、防御率は0点台(0・58)をマークした。18年まで2年続けてシーズン59試合に登板するなど3連覇に大きく貢献。広島の中継ぎに欠かせない存在となり、優しく穏やかな性格でチームメートに愛された。

勤続疲労もあり、肩や肘を痛めながらも、やはり直球にこだわった。球速だけを追い求めてきたわけではない。「どうやったら真っすぐで勝負でき、速く見せられるかなと考えた」。1球1球間合いを変え、得意なクイックの技術も磨いた。「いかに打者に気持ち良く振らせないか」と、1秒を切るスーパークイックも織り交ぜた。「150キロ出ないなら、少しでも距離を」と踏み出す歩幅を7足分に伸ばし、踏み込んだときのグリップ性を求めてスパイク裏の素材も変えた。

直球とともに歩んできたプロ野球人生の終わりを決めたのもまた、直球が理由だった。「質の部分でファウルを打たせたり、空振りを取れなくなった時点で、自分は(引退)と思っていたので。そこは、投げながら分かりやすかった。自分で投げながら感じられたので、納得しています」。球界全体の平均球速が上がる中で、ここ3年は1軍の戦力になれなかった。「自分のストレートを投げられなくなったことが大きな理由。最後までストレートで勝負した結果なので、納得しています」。9月下旬、自ら球団に引退を申し入れた。

引退試合前の会見でも、引退試合後のセレモニーでも、涙を一粒もこぼさなかった。「悔いだったり、後悔だったりはない」。真っすぐにプロ野球人生を歩んだ右腕は、最後まで晴れ晴れとした表情でグラウンドを去った。【前原淳】

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