今度は「13球」に魂を込めた。阪神湯浅京己投手(24)の名前がコールされると、甲子園が一気にどよめいた。2点ビハインドの8回に登板し、1イニングを無失点。直後にチームが逆転し、勝利投手になった。お立ち台で「おかえり!」と振られると「ただいま!」と破顔。「アツアツで~す!」と決めゼリフも飛び出した。

先頭ゴンザレスを二ゴロ、紅林を151キロ直球で空振り三振に仕留めると、最後は若月を149キロ直球で空振り三振。力強く3人で料理した。左脇腹筋挫傷から復活後、1軍登板では初めて1イニングをクリア。奪三振も同じく初だ。背番号65の連投に聖地が揺れた。

「3人で抑えて、いい流れをつくりたかった。日本シリーズで少しでも力になろうと思って、一生懸命腕を振りました」

前日1日は3-3で同点の8回2死一、三塁で登板。139日ぶりの1軍戦で中川圭を二飛に仕留め「1球火消し」に成功し、その後のサヨナラ劇を呼んだ。実は、岡田監督の起用に誰よりも驚いていたのは、他でもない湯浅本人だった。

「正直、こんな場面でいかせてもらえるんやって…。そういう気持ちもありましたよ」

同時に平常心も保てていた。「WBCの(準決勝)メキシコ戦を経験してるんで。あそこまでの緊張ってないんで」。世界を舞台に腕を振った経験が、ここ一番で生きる。

「メキシコ戦はアウェーだったけど、ここはホーム。歓声に力もらいました。打たれると思ってマウンドには上がっていないので」

この日も虎党の熱狂に背中を押され、連日の「勝利の使者」となった。

岡田監督は「流れというか、最初からいくつもりやったからな」と信頼を寄せた。日本一まで、あと1勝。負傷に苦しんだ男は、何度でもヒーローになっていい。【中野椋】

▼湯浅がシリーズ初勝利。今季の湯浅は公式戦で0勝2敗だった。シーズン0勝の投手がシリーズで勝利を挙げたのは、21年<3>戦の石山(ヤクルト)以来8人目。セ・リーグの投手では石山に次いで2人目。

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