2月28日のRISE横浜大会で那須川天心(22)が志朗(27)に3-0で判定勝ちを収め、44連勝を飾った。「考えていることは似ている」。試合後のインタビューでは、お互いに同じ言葉を発した。これまで32KOと、強烈な蹴りや打撃で圧倒し続けてきた那須川だが、今回の戦いを「倒せたら良かったけど、そこを目的にしたわけではない。9分間だまし続ける究極の心理戦。駆け引きで勝ったことが一番うれしい」と振り返った。

1回は「作戦の1つ」と蹴り中心で入った。公開練習でボクシング技術の向上を語っていただけに、あらゆる対策を練っていた志朗にとっても「予想外」だった。那須川は「パンチは警戒していると思ったし、その分相手の反応がコンマ何秒だけ遅れたので先手を取れた」。

2回は一転、パンチでポイントを稼ぎにいった。試合前から「スピードが速いだけじゃない」と話していたように一瞬、間を空けた遅いパンチを効果的に使った。「僕の速いスピードを研究していたと思うのであえてそうした」。

3回ではジャブを有効に使い、相手を翻弄(ほんろう)した。「ワン、ツーではなく、ワンのあとワン。速く入ってゆっくり打ったり、ゆっくり入って速く打ったり。同じフォームでもスピードを変えた」。ジャブで相手と接近した直後には、細かいステップバックで志朗を惑わせた。「次にいこうとしたらもう射程圏内にいなかった。彼のジャブは距離の支配力がすごい。手に負えなかった」と完敗を認めた。那須川も「3回は来るのが分かっていたので(ステップバックは)狙っていた」と明かした。

RISE伊藤代表は「格闘技=KOだけじゃないというところを見せられた。天心をあそこまで追い込んで戦えるのは志朗くらい」と最高峰の戦いに納得の表情を見せた。

那須川は普段から闘志をむき出しにするタイプではないが、今回は違った。「試合前はテレビのオファーを全部断っていた。それくらい気合が入っていた」。対策十分の相手に異次元のスピード、技術だけでなく心理戦でも上回った。「(志朗は)相手によってスタイルを変えられる選手だけど僕もそうだったので。超玄人好みの対戦だったのでは」。一流選手にしか分からない駆け引きを制した那須川の完勝だった。【松熊洋介】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

試合後、ポーズを決める那須川(撮影・滝沢徹郎)
試合後、ポーズを決める那須川(撮影・滝沢徹郎)