幕尻の西前頭17枚目徳勝龍(33=木瀬)が、関脇経験を持つ平幕の碧山を突き落として首位を守った。幕内での2桁白星は、11勝で優勝次点だった15年初場所以来2度目。

“相撲発祥の地”奈良県出身の力士として、98年ぶりとなる優勝も視野に入ってきた。幕尻Vなら00年春場所の貴闘力以来2度目となる。正代も1敗を堅持。11日目を終えて平幕2人が首位に並ぶのは1956年夏場所の大晃、双ツ竜以来だ。貴景勝ら2敗勢3人が追走する。

   ◇   ◇   ◇

西方に軍配を上げた行司を見て、徳勝龍は一瞬、驚いたように口をぽかんと開けた。「足が出たかなと思ったんですが、軍配はこっちでしたね」。

リーチがある碧山との突っ張り合い。左四つに組まれて寄られたが、土俵際で右から突き落とした。徳勝龍の足が出たと物言いがつくも、協議の結果、行司軍配通り。「たまたま。落ちついて、やれることをやればいいと言い聞かせながらやっていた」。賜杯レースの先頭集団にいながら、ひょうひょうとして土俵に上がっていた。

自身の活躍によって、故郷の相撲熱を高めたい。日本書紀に「相撲発祥の地」と記されている奈良県だが、現在は相撲部を持つ高校がない。「僕が中学生のときはあったけど。寂しいです。自分は土俵で頑張ることしかできないので、ちょっとでも盛り上げられれば」。奈良県出身の力士の優勝は、1922年(大11)の元小結鶴ケ浜が最後。「変わらず一番一番」と欲を出さないものの、98年ぶりの快挙に少しずつ近づいている。

師匠の木瀬親方(元前頭肥後ノ海)は「徳勝龍を慕って部屋に入る子もいる。うちの部屋にとって“福の神”だよ」と、人望の厚い弟子の躍進がうれしそうだ。高校、大学の3学年後輩で、弟弟子でもある平幕の志摩ノ海も「面倒見がいいし、先輩ぶらない」と尊敬のまなざしを向ける。優勝争いの中心として迎える残り4日。「周りは気にしません」。高い求心力をうかがわせる33歳は、どっしり構えて勝利も引きつける。【佐藤礼征】

<徳勝龍アラカルト>

◆本名 青木誠(あおき・まこと)

◆生まれ 1986年(昭61)8月22日、奈良市出身。

◆サイズ 181センチ、188キロ。

◆相撲歴 小4から「けはや相撲クラブ」に通い、光陽中3年時に都道府県大会個人3位。高知・明徳義塾高から近大に進学。大学4年時に全国大学選抜大会で優勝するなど在学中に5タイトル獲得。

◆しこ名 両親が好きな「徳」、18日未明に死去した近大相撲部監督の伊東勝人さんの「勝」から。

◆角界入り 09年初場所で初土俵。11年九州場所で新十両昇進、13年名古屋場所で新入幕。通算433勝410敗。