日本相撲協会は、3月30日に職務分掌を発表した。八角理事長(元横綱北勝海)以下、全105人の親方衆の所属部署など新職務が決定し、すでに日本相撲協会のウェブサイトにも掲載されている。一般的にはなじみの薄い、この職務分掌表を3項目に分けて読み解いてみる。4枚に分けた画像とともに読んでいただきたい。【取材・構成=佐々木一郎】

協会NO・2の事業部長は陸奥親方

<理事> 最も大きな動きは、事業部長に陸奥親方(元大関霧島)が就いた人事だ。事業部長は文字通り全事業を取り仕切る責任者であり、理事長に次ぐ「協会NO・2」のポスト。前事業部長の尾車親方(元大関琴風)は4月26日に定年を迎えるため前体制限りで理事を勇退し、次の事業部長が誰になるか注目されていた。

なぜ陸奥親方だったのか。理事の互選によりすでに続投が決まっていた八角理事長は、3月30日の年寄総会(親方全員が集まる会議)で方針を口にしている。出席者によると、コロナ禍にあって混乱を避けるため、職務の変更は最小限にとどめた意向を示したという。人と人との接触に制限が多い昨今、継続性をより重視した。前体制の理事10人のうち、定年を控える尾車親方、鏡山親方(元関脇多賀竜)、高島親方(元関脇高望山)の3人が抜けた。理事留任となった7人は、前体制での主要職務をそのまま継続。抜けた3人の主要職務を、再任の陸奥親方が事業部長、新任の伊勢ノ海親方(元幕内北勝鬨)が春場所担当部長、佐渡ケ嶽親方(元関脇琴乃若)が審判部長としてそれぞれ引き継いだ。

新職務としての事業部長は重責でもあるが、事業部副部長は、将来の幹部候補と目される副理事の藤島親方(元大関武双山)が続投。部長の脇をがっちり固めている。もちろん、陸奥親方は八角理事長と気心が知れており、理事経験もあるため、任せられると判断したのだろう。陸奥親方は、2年後の4月に定年を迎える。コロナ禍を乗りきることが、最後の花道になる。

役員待遇委員に九重親方が抜てき

<役員待遇委員> 陸奥事業部長以上に、角界内部で話題になったのは、九重親方(元大関千代大海)が抜てきされたことだ。理事10人、副理事3人に続く階級が「役員待遇委員」(通称・役待)で、今回は8人が任命された。顔ぶれは、尾車、鏡山、高島、入間川(元関脇栃司)、錦戸(元関脇水戸泉)、勝ノ浦(元幕内起利錦)、白玉(元幕内琴椿)、九重の各親方。役待は、理事長の指名により決まる。

重要事項を承認する理事会には、理事、副理事のほか、役員待遇委員も出席できる。出席者の中で九重親方は最年少46歳、唯一の40代だ。

八角理事長はまだ58歳と若く、長期政権が見込まれるが、高砂一門のその後にも目を向けている。九重親方を引き上げたことについて、ある親方は「一門の中から、理事としての後継者という意味合いで選んだのではないか」と指摘する。別の親方は「期待の表れ」とも言った。東関部屋が八角部屋に吸収合併されたこともあり、高砂一門は現在、八角、九重、高砂、錦戸の4部屋のみ。指導力や元大関という番付も含め、将来を見据えて抜てきされたとの見方が根強い。

話題盛りだくさんの審判部

<審判部> 審判部は「花形」とも言われる。土俵下で審判を務めるため、観客の目に触れ、テレビにも映る。今回の人事では、伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)と佐渡ケ嶽親方の2人が審判部長に就いた。副理事の藤島親方と粂川親方(元小結琴稲妻)が審判部副部長を務める。事業部副部長も兼ねる藤島親方は編成担当となるため、取組編成会議や番付編成会議に出席するものの、土俵下の審判には入らない見込み。十両以上の取組では、伊勢ケ浜、佐渡ケ嶽、粂川の3親方が交代で審判長に入るとみられる。

審判委員として新たに加わったのは、鳴戸(元大関琴欧洲)、雷(元小結垣添)、二所ノ関(元横綱稀勢の里)、千田川(元小結闘牙)の各親方が配属された。中でも人気抜群の二所ノ関親方の配属は話題になった。審判部となったため、NHK大相撲中継の解説はできなくなったが、審判に入る時にアナウンスされるだけで場内が沸くだろう。浅香山親方(元大関魁皇)らと審判団を組む見通しだ。

最後に…

親方の階級は理事、副理事、役員待遇委員、委員、主任、年寄、参与に分けられ、給与も異なる。職務分掌表を見れば、それぞれの親方の協会内での立ち位置が透けて見える。配属には意味がある。今回の人事は動きが少なかったが、好角家にとってはこの一覧表をながめるだけで、話題は尽きない。