新型コロナウイルス感染拡大の影響で3月半ばからアメリカのほぼ全ての映画館が閉鎖に追い込まれ、撮影やイベントも全て中止となっているハリウッド。2か月たった現在も再開のめどは立っておらず、映画スタジオのみならず俳優や監督、撮影クルーそしてタレントエージェントや弁護士、劇場主まで影響を受けている人は計り知れず、ハリウッドの映画産業は数十億ドル規模の損害が生じると言われています。

カリフォルニア州では今月に入り、段階的に自宅待機命令を解除して経済活動を再開させていますが、現時点で大人数が集まるイベントや映画館の再開には数カ月かかるとの見通しを示しており、映画やテレビの撮影再開も夏までは難しい状況です。

そんな中迎える今年のサマームービーシーズンは、ハリウッドにとって希望と試練の入り交ざる複雑な夏となりそうです。例年は5月末の連休メモリアルウイークエンドから8月にかけて毎週末話題の新作が公開され、1年で最もハリウッドが盛り上がる季節となりますが、今年はパンデミックの影響で多くの映画が公開延期を決めており、映画館の再開を待ちわびているファンにとってはさみしい夏となってしまいそうです。大ヒットカーアクションシリーズ最新作「ワイルド・スピード/ジェットブレイク」やトム・クルーズ主演の「トップガン」の続編「トップガン マーヴェリック」、マーベル・スタジオの「ブラック・ウィドウ」や「ジ・エターナルズ」、ウォルト・ディズニーの「ジャングル・クルーズ」など話題作が軒並み公開延期を発表しており、現時点で今夏に公開を予定している作品はわずか3作品しかありません。

そのうちの1作品は、当初の3月27日から公開を延期していた中国の伝記を題材にしたディズニーの実写「ムーラン」で、7月24日の公開を目指しています。そしてもう1作は、ガル・ガドット主演のアクション大作「ワンダーウーマン 1984」で、こちらも6月5日から8月14日に公開が延期されています。3作品の中でもっとも注目を集めているのが7月17日に公開予定のクリストファー・ノーラン監督の新作「TENETテネット」で、順調に事が運べばパンデミック後最初に公開される映画となる予定です。ノーラン監督は劇場が閉鎖された直後に「映画産業には劇場でポップコーンを売る人から技術者、チケットもぎり、買い付ける人、広告を売る人などたくさんの人に支えられている」とワシントン・ポスト紙に寄稿文を寄せて映画館を救おうと呼び掛けており、自らの作品で映画館を再開させるべく尽力していると伝えられています。関係者によると全米全ての都市の劇場のみならず海外での公開も目指しており、パンデミック前と同様に世界規模で公開することが100%のゴールだと語っています。

しかし、それには大きな壁もあります。ジョージア州やテキサス州など南部の一部地域では先月末から映画館の再開が認められましたが、多くの映画館が早期再開はリスクが高いとして慎重な姿勢を見せており、一部独立系の小規模劇場を除いて営業を再開した劇場はごくわずかです。一方、ハリウッドのお膝元ロサンゼルス(LA)は、自宅待機命令が今後少なくとも3カ月程度続く見通しで、7月17日までに劇場を再開できるかは不透明な状態です。カリフォルニア州の経済再開緩和策では映画館はリスクの高いビジネスとして4段階中3番目(現在は第2段階の初期)にカテゴライズされており、公開にギリギリ間に合うかどうかも焦点となってきます。劇場再開に向けて観客のマスク着用や検温、ソーシャルディスタンスを保つために収容人数を25~30%減らすなどの案が検討されていますが、LAやニューヨークなど興行の4分の1近くを占める大都市で公開できない場合は興行面で苦戦を強いられることになり、2億ドルを超える製作費の回収も危ぶまれてきます。

それでもノーラン監督は公開に強い意欲を示しているようですが、劇場が再開されてもこれまでのようにスターや出演者らが一堂に会してレッドカーペットを歩く大規模なプレミアの開催は難しく、海外でのPRツアーも行えない可能性もあり、宣伝面でも苦戦を強いられることになりそうです。また、第2の市場である中国や欧州など世界各国の映画館再開も条件となってくるため、映画産業の復活には思った以上に時間がかかるかもしれません。いずれにしても感染が拡大しているニューヨークやLAでの自宅待機命令が解除され、劇場再開にゴーサインが出ることが映画ビジネス復活の鍵となることは間違いないでしょう。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)