演劇雑誌「悲劇喜劇」3月号で、「平成の演劇」を特集している。

30年間の演劇状況を現代演劇、歌舞伎、商業演劇、ミュージカルのジャンルごとにまとめたり、作り手の側から見た30年間の演劇を座談会で俯瞰(ふかん)するなど、読みごたえのある内容になっている。

その中で「私がえらぶ、平成のこの一本」というアンケートが特集されている。大ベテランの演劇評論家から、演劇を専門とする大学教授、そして私のような演劇ジャーナリストまで36人が、30年間で上演された舞台、俳優、戯曲から「この一本」をそれぞれ選んでいる。

その結果が興味深い。俳優部門で最も多かったのは、一昨年に亡くなった平幹二朗さんで、9人だった。その舞台として、蜷川幸雄演出「近松心中物語」「王女メディア」「テンペスト」から、最後の出演舞台となった「クレシダ」などが挙がっていた。続くのは大竹しのぶで、5人。舞台もライフワークとなりつつある「ピアフ」から、井上ひさしさん作「太鼓たたいて笛ふいて」、ラシーヌ作「フェードル」エウリピデス作「メディア」と多岐にわたった。滝沢修さん、坂東玉三郎、野村萬斎が各2人だった。

戯曲では、井上ひさしさんの「父と暮せば」が8人で、最も多かった。井上作品では「シャンハイムーン」や東京裁判3部作を挙げる人もいた。続くのは野田秀樹「パンドラの鐘」で4人、三谷幸喜「笑の大学」、小幡欣治「熊楠の家」が各2人だった。

舞台は意見が分かれた。最も多かったのは、蜷川幸雄演出で、上演時間が9時間に及んだ大作「グリークス」の4人だった。複数の人が挙げたのは、同舞台だけだが、ちなみに蜷川演出の舞台はこのほかに「ひばり」「近松心中物語」「海辺のカフカ」「天保十二年のシェイクスピア」が挙がっていた。

ちなみに私が選んだのは、俳優は「大竹しのぶ」、戯曲は「父と暮せば」、舞台は野田秀樹作・演出「エッグ」だった。大竹は30年間で女優として目覚ましい成長を見せ、名実共に大女優になった。「父と暮せば」は広島の原爆で命を落とした父の亡霊と娘を主人公に、原爆をテーマにした舞台の最高傑作。「エッグ」は、架空のスポーツ競技の話から、旧満州で人体実験を行った731部隊にまで飛躍する中で、熱狂する大衆の怖さを鮮烈に見せた。

【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)