とうとう、この日が来てしまうのか。松本白鸚(78)の主演ミュージカル「ラ・マンチャの男」が来年2月にファイナル公演を迎えることが発表された。

染五郎時代の1969年に初演し、70年にはブロードウェーで英語での上演にも挑んだ。「見果てぬ夢」などの名曲に、「事実は真実の敵なり」「一番の憎むべき狂気とは、あるがままの人生に折り合いをつけ、あるべき姿のために戦わないことだ」など見る者の心を鼓舞する名せりふの数々に、観客の熱い支持を受けて再演を重ね、初演から50周年の19年の公演で通算1307回を達成した。

その時の公演で白鸚は喜寿の77歳。「遍歴の旅はクライマックスへ」という意味深なキャッチコピーが付けられていたが、会見で「私は人生すべてがクライマックス。この公演だけがクライマックスというわけではございません」と笑いを誘いつつ、「人間やっぱり肉体的には限界があるけれど、魂といいますか、このドン・キホーテの『ラ・マンチャの男』の精神だけはいつの時代でも生き続けてほしい」と話した。いつか来るであろう「白鸚ラ・マンチャ」の最後を見据えた言葉だった。

今年4月に「ラ・マンチャの男」とともにライフワークとする、上演回数1150回を超える「勧進帳」を歌舞伎座で上演した。息子幸四郎との交互主演だったが、気力・体力ともに限界ギリギリの中でこん身の力を振り絞って弁慶という大役に挑んだ姿には鬼気迫るものがあった。

「勧進帳」はまだ続けてくれるだろうが、遍歴の旅を初演から53年で終えることを決意した。79年に見て以来、これまで20回以上は見ている。半世紀近いミュージカル観劇の中で「ラ・マンチャの男」はベストワンの舞台だった。2年前の舞台でも歌にも動きにも衰えはまったく感じなかったし、千秋楽の楽屋で取材した際は、思わず「ずっとやり続けてください」とお願いしたほどだった。

今回のファイナル発表で白鸚のコメントはなく、緊急事態宣言の解除後に時期を見て、会見を行い、自らの口からファイナルに至る思いを明かしてくれるのだろう。好きな場面はいっぱいあるけれど、特に、囚人仲間が「見果てぬ夢」を歌う中、宗教裁判所に向かうセルバンテスが胸を張って階段を堂々と上がっていくラストの場面がお気に入りだった。裁判でどんな過酷な刑が待っていようと、それを恐れない強さと覚悟を秘めた白鸚の後ろ姿にいつも勇気をもらっていた。最後の舞台は、たぶん、涙腺が崩壊するだろうけれど、ラストの後ろ姿はしっかり目に焼き付けようと、今から思っている。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)