大みそかに行われた「第71回NHK紅白歌合戦」第2部の平均視聴率が40・3%を記録したことが2日、明らかになった。史上最低だった前回の37・3%から3ポイント上昇した。コロナ禍の演出制限で「歌の力」「歌手の力」に“全集中”した原点回帰がSNS上でも大歓迎されたが、それは歌手側も同じ。ステージで思う存分パフォーマンスできることに「燃える」。リハーサルの目の色からして、前回とは全然違った。

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コロナ禍で史上初の無観客開催となった今回は、出場歌手の蜜を避けるため、NHKホールのほか、局内で最も大きい101スタジオ、オーケストラスタジオの3ステージにアーティストを分け、中継でつなぐ形で行われた。ホールは、前方9列目まで客席を撤去し、無観客だからできる巨大センターステージが出現。円形階段や巨大モニターなど、曲によって変わる広々としたショー空間となった。

感染予防対策のため、ステージ上でパフォーマンスするのはアーティストのみというケースが圧倒的に多かった。大勢でひとつの作品を作る俳優業と違い、たった1人で世界観を背負い、聴き手を圧倒する歌手にとって「できれば1人で、自分たちだけで立ちたい」のが本音であり、それがかなった今回はみんな闘志に火が付いていていた。

リハ取材では、客席ぶち抜きのステージにみな一様に感動を語り、「どう自己表現しようか熱くなる」「自分たちの個性や強み、武器を発揮できる」「演奏の方がいるだけのシンプルなステージが自分好み」「音合わせリハだけでグッとくる」と、武者震いのコメントが相次いだ。東京フィルハーモニー交響楽団の演奏で歌うという、音楽スキルがダイレクトに出るオーケストラスタジオ組の面々も「生演奏で歌えるのが歌手はいちばん燃える」と意気込んでいた。

コントやトーク、新名所紹介など、歌とはまるで関係ない企画の増量によって出場歌手とそれぞれの歌唱時間が大幅に削られ、全体リハの欠席組が相次ぐなど高揚感を欠いた昨年のリハ風景とは対照的だ。意気込みの現れなのか、アーティストの多くが本番の衣装でリハに臨んでいたのも強く印象に残る。

会場は3カ所に分散されたが、「こんな時だからこそ音楽の力を届ける」という出場歌手の連帯感も強かった。音楽エンターテインメントが「不要不急」の言葉に悩み抜いた1年。それだけに、紅白のステージに立たせてくれたファンの応援に応えたいという思いを口々に語り、リハから「受け手」を強く意識していた。アイドル勢はリハからカメラに手を振っていたし、誰もいない客席にマイクを向けて「カモン!」「皆さんご一緒に!」とやっていた鈴木雅之は、リモート取材勢の話題となった。

個人的には、円形の大階段や、歌い終わった歌手が次にバトンタッチする曲紹介リレーなど、音楽番組全盛期のDNAを感じさせる演出にも心躍った。前半戦トップパッターのKing&Princeが、2番手のFoorinを紹介。ダンサーでもあるキンプリが、モニターで「パプリカ」を踊っている様子は、多ジャンルが一堂に会する紅白ならではの光景だった。ここ数年「コント番組との共演」のような間違った方向性で見たことがないものを追っていた紅白が、コロナ禍で本来の姿を取り戻したように見えた。

紅白全盛期を知る総合司会の内村光良が、歌手たちの圧倒的なパフォーマンスに「これぞ紅白!」と興奮していた胸の内も伝わってきた。シンプルなパンツスーツ、滑舌の良いトーク、機転のきく明るさで最高の紅組司会を務めた二階堂ふみ、陽性キャラと歌手へのリスペクトのバランスが素晴らしかった白組司会の大泉洋。自分が主役にならない司会陣のコンビネーションも近年でいちばんだったと思う。

あれもこれもと余興を盛らなくても、表現するステージさえあれば、特にファンでない人をもくぎ付けにする力が、歌と歌手にはある。制作統括の加藤英明チーフ・プロデューサーも「新しい発見があった」という今回の紅白。歌ってすごい、歌手ってすごい。そう思わせてくれる「歌合戦」だった。

(視聴率はビデオリサーチ調べ、関東地区)

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)