作家・村上春樹氏(71)の14年の短編小説集「女のいない男たち」(文春文庫刊)に収められた「ドライブ・マイ・カー」が映画化されることが29日、分かった。商業映画デビュー作となった18年の映画「寝ても覚めても」が、世界3大映画祭の1つ、カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを争うコンペティション部門に出品された濱口竜介監督(41)が、自ら映画化を熱望し、脚本も手掛ける。配給のビターズ・エンドが発表した。

「ドライブ・マイ・カー」は、村上氏が13年11月発売の「文芸春秋」12月号に発表した短編で、同誌14年3月号まで連続で掲載した「女のいない男たち」と題した連作の第1弾。舞台俳優の家福(かふく)が、亡くなった妻が複数の男と不倫していた過去にさいなまれ、10年もの間、友人を作らないでいた中、妻と関係していた俳優と知り合い、友だちになり、当てもなく語り合う物語。

濱口監督は、4人の女性の友情と心の機微を描き、5時間を越える長編となった16年「ハッピーアワー」でロカルノ、ナント、シンガポールをはじめ数々の国際映画祭で主要賞を受賞。「寝ても覚めても」も各国で評判を呼び、日本映画界の若手監督の中でトップランナーとして評価が高い。

また、黒沢清監督(65)が世界3大映画祭の1つ、ベネチア映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞した「スパイの妻」では、脚本を担当。東京芸術大大学院映像研究科の師匠である同監督に、18年にともに脚本を担当した野原位監督とともに「脚本を書きますから神戸で撮りませんか?」と持ち掛け、作ったプロット(あらすじ)を見せたことで、企画が成立した。

黒沢監督は、受賞後の会見で「戦前をベースに、原作も実在の人物もいない全くオリジナルの物語なのがすごい。面白く、作品の50%は保証された。すぐ撮ろうと思った」と濱口、野原両氏の脚本を高く評価。受賞の可能性がささやかれた時は脚本賞だと思ったといい「プロデューサーとして僕を引き入れてくれた。いい生徒を持った。彼らがやりたいことをやる、駒の1つになったのも実感した。そのうち、駒のように使ってやらなきゃと思っている。いい関係、対等な感じ」とライバル心ものぞかせるほど評価している。

その濱口監督が、村上春樹氏の原作を映画化する。21年に全国公開の予定で、新型コロナウイルスが世界各国で再び猛威を振るう状況の中ではあるが、同監督の新作が世界各国の映画祭を席巻するか、注目だ。