Kis-My-Ft2藤ケ谷太輔(35)が、公開中の映画「そして僕は途方に暮れる」では極めつけのクズ男を、放送中のテレビ朝日系ドラマ「ハマる男に蹴りたい女」(土曜夜11時)ではラブコメディーと、見事な演じ分けを実践している。

「そして-」では、こだわりの人、三浦大輔監督のダメ出しの連続に耐え、「100テイク行ったこともありました。でも、出来上がった作品を観て、監督にはホントに感謝しかありません」と達成感も語っている。

俳優業も快調な藤ケ谷だが、もともとは「役者」を目指していたわけではない。先日のインタビューで、演技に目覚めたある体験を明かしてくれた。

06年に出演したドラマ「下北サンデーズ」の時の話だから、キスマイのメンバーにはなっていたが、グループとしてCDデビューする5年前のことだ。

「初めての連ドラで、監督は堤(幸彦)さん、主演は上戸彩さんでした。まだ、ドラマのことは何も分かっていませんでしたね。出演が決まったのも収録の3日前だったんです」

収録現場に入ると、藤ケ谷を見た堤監督が「何かキャッチーなアイテムが欲しいな」とつぶやいた。

周囲を見回した監督の目に入ったのは助監督がかぶっていたキャップだった。「それちょっと貸して」。藤ケ谷にかぶせると、「めっちゃ面白い。それで行こう」。監督が5000円出して助監督から買い取り、藤ケ谷の「衣装」の目玉になった。

「助監督が何年かぶってたか分からないヤツですよ(笑い)。あれが19歳の時でした」

だが、それがドラマの撮り方に興味を持つきっかけになった。収録現場独特の言い回しや、その意味。それが映像にもたらす効果が気になるようになった。どんどん知りたくなったという。

「それまでは家でもぼけ-っとドラマを見ていたんですけど、例えば乾杯のシーンなんかを見ながらいろいろ考えるようになりましたね。位置取りがどうで、照明はどう当てているのか。こっちのアングルを撮った後、今度はアングルを変えてまた撮る、とか。たった数秒の乾杯シーンを効果的に見せるためには恐ろしいほどの長時間がかけられている。そんな風にドラマを見られるようになりましたね」

現場でも背景やスタッフの動きが気になるようになった。

「好きになればなるほど、その中で演じることの難しさも実感するようになりましたね。その後、舞台のストレート・プレイのお仕事もいただいて、かっこよく見せようと思ってきた自分のやり方を全部否定されたり…。いろんな経験が重なって今があると思いますけど、その出発点は『下北サンデーズ』かもしれないですね」

5000円の中古キャップは「俳優・藤ケ谷」の原点を象徴するアイテムともいえそうだ。【相原斎】