11月24日に実写日本映画興行収入(興収)記録を22年ぶりに更新し、21日には181億円を突破した「国宝」(李相日監督)が、作品賞、李相日監督(51)の監督賞、吉沢亮(31)の主演男優賞はじめ、史上最多の6冠に輝いた。また、石原裕次郎賞は作家・真藤順丈氏の2019年(平31)の直木賞受賞作を実写映画化した「宝島」(大友啓史監督)が受賞した。
11月22日に東京・築地の日刊スポーツ本社で開催した、選考会での議論を公開する。両部門は作品が対象で、両方にノミネートされた作品もあるため、併せて議論した。(選考委員は敬称略)
<作品賞ノミネート>
「国宝」(李相日監督)
「宝島」(大友啓史監督)
「遠い山なみの光」(石川慶監督)
「TOKYOタクシー」(山田洋次監督)
「フロントライン」(関根光才監督)
<石原裕次郎賞ノミネート>
「国宝」(李相日監督)
「宝島」(大友啓史監督)
「爆弾」(永井聡監督)
「秒速5センチメートル」(奥山由之監督)
「フロントライン」(関根光才監督)
笠井信輔(フリーアナウンサー) 「国宝」を見た衝撃は強かった。自分も歌舞伎を見ている中で、あの2人(の歌舞伎役者)のバックステージを描いているのかと思ったら、むしろオンステージを描き、監督と役者が強烈なパワーで作り上げていることに頭が下がる。ヤクザの息子が国宝になれるのか? という大前提も取っ払っちゃう。今年の日本映画界は、どの作品も選んでもいいくらいの豊作で悩んだけれど…「国宝」が抜けちゃったかな、と。他の作品にスポットが当たりにくくなったのは、かわいそうなくらい。国内の、どの映画賞も「国宝」になるんだろうなという感じはありながらも…あまり、こう言うのはなんだけれども「国宝」1作品に集中するのではなく、他の作品を評価する、というのも、1つの考え方かなと。
伊藤さとり(映画パーソナリティー) いつも思うんですけど、日刊スポーツ映画大賞には脚本賞がない。そこが残念。作品賞は、総括で見た賞だと考えています。バランスでいくと「国宝」。あの美術、ビジュアル、撮影技術、キャスティングだから1シーン、1シーン、飽きない。歌舞伎の監修も入れて、全ての部署が関わった。「宝島」は、大友さんが手がけた後半のオリジナル部分が、私はダメだった。急にファンタジーに変わってしまい、展開が急すぎて…感情を引き離された感覚があった。「爆弾」は、原作がメチャクチャ面白かったんですけど、映画はテレビドラマの画角で、2時間ドラマに見えた。絵の引きが少ない…テレビ屋さんが作った作品だとと思った。「秒速5センチメートル」は(原作の)新海誠監督のアニメのファンとして、許せなかった。新海さんの世界観って、しゃべらない…その時、彼らが何を考えているのか、情感で示した。でも、映画は全ての感情を吐露する…感情を全部、説明しちゃって。こんなに、いい原作を…すごく残念。観客を、バカにしたものになってしまったと感じました。「フロントライン」は、テーマは素晴らしいんですけど、主要キャストの4人の世代が、バラバラだったら、全世代が見られるものになったんじゃないか。
品田英雄(日経BP総研客員研究員) 「秒速5センチメートル」は劇場に見に行きましたが、隣で大学生の2人が「アニメより分かりやすくて良かった」とは言っていましたね。
笠井 役者の頑張りは、素晴らしい。別の視点の映画と考えてもいいのでは?
福島瑞穂(参院議員) 「国宝」が、すごくヒットした。色彩的なものを含め、外国でもヒットしますよね。「国宝」「宝島」は外せない。「宝島」は欠点はあると思うんですけど、沖縄の戦中、戦後の歴史を、戦後80年で描いた意欲を買う。コザ騒動や、米軍から物資を取ったとか、扱いにくいテーマを撮る熱量があり、沖縄では、すごく話題になっています。「爆弾」は、娯楽映画として最高。取調室の場面で、言い返すのが大好き。山田裕貴さんと佐藤二朗さんの顔芸が、すごい。こういう感じで画面を独占するんだと…俳優が、生き生きと、生きていると思いました。
神田紅(講談師) 「国宝」は外せない作品ですから、作品賞に「国宝」を選んだら、石原裕次郎賞は、どうしようか…悩みます。すごく困っています。「TOKYOタクシー」は(選考会前日の)昨日(11月21日)の初日も劇場で見て、すごく良い作品だと感じました。
服部宣之(テレビ朝日ストーリー制作部長) 「国宝」は、総合力が本当に素晴らしい。「宝島」は、中身は素晴らしい…でも脚本が後半に行くにつれ、ああしたのがよく分からない。「遠い山なみの光」は、素晴らしい作品だと思いますが、作品賞か? と問われると…。
石飛徳樹(映画評論家) 「国宝」一択です。この20年くらいの中で、こんな映画に出会ったことがない。若い人がターゲットの映画が増えていく中で大人のエンターテインメントを、ちゃんと作ったらヒットするんだということを、映画界に教えてくれた。作品賞と(大作感のある娯楽作品が選考基準である)石原裕次郎賞の受賞作を、分けたいというのは分かるんだけど、規約にも明確に別々に分けるとは書いていないから、今年に限っては、むしろ両方(『国宝』のダブル受賞)でいいんじゃないか?
河内利江子(石原音楽出版社) 「国宝」か「宝島」で悩んでいます。個人的には(石原音楽出版社の前身の)石原プロモーションから30数年、在籍してきた立場から、石原裕次郎が映画を作るなら、きっと「宝島」の方になるのかなと。「国宝」も熱がこもっていますけど「宝島」の熱量をスクリーンから感じました。
橋本亮(共同通信記者) 今年のベストムービーは、何なのか…「国宝」を外す選択肢はないのかなと。すると、石原裕次郎賞は、石原プロモーションが作るなら、こういう作品と言われると「宝島」は納得。笠井さんが指摘された「『国宝』一色で良いのか?」という部分で、もうちょっと考えていくべきかな、と。
駒井尚文(映画.com編集長) 作品賞は「国宝」だと思うんですけど…。「劇場版『鬼滅の刃』無限城編 第一章 猗窩座再来」は興行収入386億1000万円ですよ。ノミネートには、ないんですけど…。
寺脇研(映画評論家) 今年の日本映画は、ものすごく豊作だったと言われているんですけども「国宝」が、もったいないですね。一部の作品で(各劇場の)スクリーンが独占されているので、他の良い作品がなかなか話題にならない年でもあった。「国宝」は、よくできている映画ですけど、私の中では、より良くできた映画は10数本あったと思っています。非常に残念です。
品田 私は「フロントライン」が好き。20年に起きて、まだ歴史上(評価が)定まっていないコロナ禍を、発生から5年というスピードでまとめた。物語もスピード感があって、鑑賞したビジネスマンも「『国宝』も良いけど『フロントライン』も良いよね」と言っているのを聞いて、すがすがしい気持ちになった。
寺脇 「フロントライン」は(コロナ禍の発生から)たった5年前の話。作って大丈夫かと思った。よく映画にした。
<作品賞投票1回目>
◎「国宝」 13
「宝島」 2
<石原裕次郎賞投票1回目>
◎「宝島」 8
「フロントライン」 5
「爆弾」 1
「秒速5センチメートル」 1
※過半数の8票を得た作品、俳優が受賞



